伝統から革新へ。
石川県からはじまる
“ネオ・トラディショナル”
伝統と継承が生み出す魅力×移住者・異分野の革新
茨城県水戸市の偕楽園、岡山県岡山市の後楽園と共に、日本三名園と称される石川県金沢市の兼六園。四季折々に見られる風景には、時代を超えて人の心をとらえる美しさがあります。その兼六園の見事な庭園を一望できる休憩所「玉泉庵」にて2023年11月22日(水)、CJPF LIVEが開催されました。武家文化と公家文化が融合し、日本を代表する多くの伝統工芸や文化が栄える一方で、新たな視点を持つ人材の流入も活発化する現在の石川県。そこには、“ネオ・トラディショナル”とも言うべき新たな文化があります。形を変えながらも現代に受け継がれ、進化・変化を続ける「伝統」。そして、移住者が新たな視点で想像・創造する「革新」。茶道、美術、食、酒といった分野から、テクノロジー、地域創生、海外視点など、多彩かつ多角的な観点で行われた“ネオ・トラディショナル”についての議論・考察をお届けします。
茶道。金箔。日本酒。日本料理。
伝統と継承が生み出す魅力。
第一部は「伝統から革新へ」=ネオ・トラディショナルをテーマとして、各分野の第一人者が議論を交わしました。美術・工芸作家であり、裏千家・今日庵業躰(ぎょうてい)として宗家に仕え国内のみならず、世界に茶の心と茶道の歴史を伝える奈良宗久氏は金沢市出身。幼少時より日本美術に触れ、金沢の伝統と文化を深く知る奈良氏は「茶道とは一期一会の総合芸術。工芸品を扱い、茶室や露地に思いを馳せる。四季の移ろいを感じ、いにしえから続く年中行事を心に留める。そのような総合芸術として、伝統を守りながらも、時代を見て改革していくことも必要」と述べます。また今回は議論に先立って、奈良氏自らの点前によるお茶会も開催されました。
金沢の金箔は日本国内で圧倒的な生産量を誇り、伝統的な建築や漆器、陶器などの工芸品に使用されています。その金箔を使用して現代的なアクセサリーやコスメティックスなどを製造・販売する箔座株式会社 代表取締役社長の高岡美奈氏。父が金箔を愛する姿を見て育った高岡氏は「金箔と会社を絶やすわけにはいかない」という決意で家業を継承しました。金とプラチナを合わせた箔座オリジナル金箔「純金プラチナ箔」を始めとして、箔アクセサリー(アクリルバングル)、箔品(器)などの斬新なプロダクトを開発。「伝統を活かしながら、今の時代の方々が『素敵だな、いいな』と言ってくれるものをつくっていくことこそ、箔を次の時代につなげていく道」だと考えています。
1823年石川県白山市坊丸町にて創業された車多酒造。山廃仕込みの代名詞とも言われるほど人気の高い「天狗舞」で知られていますが、新たなブランドの柱となる「五凛(ごりん)」を生み出したのが、八代目の車多一成氏です。中国・韓国・アメリカなどを対象とした海外の市場開拓、イギリスのIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の日本酒部門立ち上げにも関わりました。また、日本酒を好きになってもらうきっかけとなるような新しいプロダクト「Sparkling純米大吟醸Awakage」や、情報発信型の店舗「天狗舞 CRAFT SAKE SHOP mau.」など、新しい時代を見据えた戦略を打ち出しています。
「日本料理の文化は継承しても、いまの姿のまま残るとは限らない」と語るのは、50年を超える伝統を持つ日本料理 銭屋の二代目主人、髙木慎一郎氏。世界各国のホテルやレストランから招聘され、これまでに20か国で日本料理を提供してきました。時代の変化、社会の変化に合わせて、新しい挑戦を続ける髙木氏にとって、食は「日本文化の重要なプラットフォーム」。日本の文化、地域の風土を知ってもらうために、日本料理を食べてもらうことが、わかりやすいエントランスになると言います。
前半の議論では、それぞれの共通項ともいえる「伝統」について、それをどのように超えようとしているか、変化の激しい時代における新しい課題とは何かを語り合いました。
奈良氏が掲げるのは「守ることと創造」。茶道は形・姿を変えていくが、その精神性が変わることはありません。「本物をより本物に感じられる場所、感じられるものを提供するということが大切ではないでしょうか」と奈良氏は語りました。
高岡氏は「材」という一言で表してくれました。金箔は材料・素材なので、使い方によって大きな可能性もあれば、伝わり方が変わってしまうこともあります。「金価格の相場が上がっているなどの課題はありますが、材料だからこそ、時代の文化を反映し、次世代につないでいけるのではないか」と自身の思いを言葉にしました。
日本酒業界への危機感として「低迷」という言葉を提示したのは車多氏です。発展性を見つけるのが難しく、業界全体が画一化されたお酒になってしまっているのではないか。「これからは、それぞれの蔵の個性を活かした酒造りが必要ではないか」と話します。現在はバラエティに富んだ酒が全国で生まれてきており、次の100年に向けてどのようなお酒を造っていけばよいのか、車多氏もさまざまなアイデアに挑戦しようとしています。
料理は人が素材に手を入れて、人が食べるもの。だからこそ「人」が最も重要だと話す髙木氏。「一緒に調理場で働くスタッフたちと、どのように成長していくか。それを考えることが、事業体としての成長を促すものであり、伝統を継承するモチベーションになるはず」と語ります。
後半は「未来をどのように作るか」がテーマ。「日本的な考え方の中に“永遠に何かの価値を伝えていく”というヒントがあるような気がする」というファシリテーター・渡邉賢一氏の言葉から議論はスタートしました。
「茶道もそうですが、一つのことをきっかけとして、いろいろなことに思いを巡らせていくことが重要」と考える奈良氏。それは「統合芸術の理解」であると言えるでしょう。「サステナブルは、愛だと思う」と語ったのは、高岡氏。父の箔への愛情を継いだこと、そして何より自身が誰より「箔への愛」が強い。「愛情さえあれば、どのような形でもやりたいことをやっていける」と話します。「水を大切にした個性のある酒造りで未来を作りたい」と話すのは、車多氏。“原点回帰プラス”という言葉を掲げ、全社で新しい山廃造りに取り組んでいると言います。そして、再び「人」をキーワードとした髙木氏は、「日本での育成はもちろんですが、海外でも日本料理に携わる外国人をどう増やしていくかが日本料理の未来にもつながっている」と語ってくれました。
外の世界から見た石川。
新たな視点で切り拓く、地域と食文化の可能性。
CJPF LIVE第二部は、「新しい視点で未来の可能性について」考えていきます。金沢まいもん寿司グループを率いる木下孝治氏。35歳以下の料理人を対象としたコンペティション「RED U-35」にて史上最年少(当時26歳)でグランプリを受賞したオーベルジュ オーフのシェフ 糸井章太氏。能登イタリアンと発酵食の宿ふらっとのシェフ・ベンジャミン フラット氏。同じくふらっとの女将である船下智香子氏の4名がパネリストとして参加しました。
前半は「新しい視点で何が見えてきたのか」というテーマでの議論からスタート。金沢で育ったからこそ、金沢ならではの食材、職人技、店舗デザインを組み合わせ、業界の常識を変えてきた木下氏は「加賀藩が育てた食文化の継承」に未来の可能性があると考えます。「公家文化の繊細さと武家文化の大胆さが融合した金沢の料理をさらに極めていきたい」と木下氏は語りました。フランスのブルゴーニュやリヨン、アメリカのサンフランシスコなどで経験を積んだ糸井氏は、「風土と文化」こそが未来にとって大切だと訴えます。オーストラリアから日本に移住したフラット氏と船下氏は「Kingdom of fermentation(発酵王国)」と表現しました。能登の環境・伝統・文化と結びついている発酵料理は地域特有のものであり、興味を持った世界中のシェフからアプローチがあります。「自分たちは長い歴史の一部分を担い、次世代につないでいきたい」と考えています」と船下氏は話しました。
後半のテーマは「どんな可能性を石川県から世界へ発信していけるのか」。木下氏が考えるのは「職人の育成」です。世界中の寿司店で日本人が経営している店舗はとても少なく、本物の日本の寿司文化を広めるためには、一流の寿司職人を育てることが重要だと言います。日本で増え続ける過疎地域にレストランをオープンし、志を持った料理人が来れば、人流が生まれて、ビジネスになる。そんな「新しい価値の創造」を目指したいというのが糸井氏。中心に食があって料理人がいるような世界観を思い描いているのです。能登は「シェフズ・パラダイス」と語るフラット氏と船下氏は、能登の食とシェフと地元の人をつなぐプロジェクト(のとラボ)やポップアップキッチンなど、能登の豊富な食材を活かしたビジネスを始動させています。
そして、今回のCJPF LIVEのテーマの一つである「共創」について、それぞれの思いを語りました。木下氏は「持続可能な社会には、食が大きく関わってくる。資源や環境を守るために、漁業者とも協力していきたい」と話します。そして「ここに集まった人たちが目指しているところは、それほど変わらない。自分の目指すものをやっていけば、自然と共創のカタチが見えてくるんじゃないか」と糸井氏。フラット氏と船下氏は「Let’s keep Alive」、能登の素晴らしさをみんなで一緒に守っていきたいという強い想いを語りました。
CJPF LIVE終了後に聞こえてきたのは「石川の素晴らしさに心を奪われ、移住をしてしまった人もいる」というエピソード。今回、登壇いただいた全員が各分野の第一人者であり、「地域の魅力」を磨き、伝え続ける第一人者でもあります。それを、ファシリテーター 渡邉氏は「文化のアンバサダー」と表現しました。
コロナ禍以降、人の活動はバーチャルに流れました。しかし、その土地の風土、風景、食文化は実際に訪れなければ、味わうことができません。ファシリテーター 渡邉氏は「ぜひ、それぞれの場所に実際に訪れてみてほしいと思います」と締めくくり、CJPF LIVEは閉幕となりました。
Answers to questions
CJPF LIVEにつきまして、皆様より頂戴いたしました質問や回答につきましてご回答させていただきます。
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実際にAIによるメニュー開発など、テクノロジーを活用した食の事例はあるんでしょうか?まだ施策段階ではありますが、ビーガンの領域において、いくつかの先進事例はあります。
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