Model case 26

「ユニークな技術・埋もれた資源×デザイン」を武器とした商品開発。 日本の四季を海外へ届ける新たなビジネスの戦略とは。

株式会社TRINUS
代表取締役 佐藤 真矢

ラテン語で“三位一体“の意味を持つ株式会社TRINUSは、「価値ある資源を現代の暮らしへ」というミッションを掲げるD2Cブランド。日本のユニークな技術や埋もれた資源+デザイン+エンドユーザーの3つをとりなし、新しい価値を創造し続けてきました。中でも2017年に発売された『花色鉛筆』は、デザイン性やオリジナル性が高く評価され、日本で話題になると同時に、海外からも大きな注目を集めるヒット商品となっています。その後も様々な商品を開発しながら、自社ならではのブランド確立を目指しているTRINUS。これまでのビジネスで得たものとは何か? そして「日本の四季」を海外へ届ける新たなビジネスの戦略とはどんなものか? そこにはたくさんのヒントやノウハウがありました。

Chapter 01

ビジネスの原体験は、「ユニークな技術(資源)とデザインを組み合わせること」。

 株式会社TRINUSの代表取締役である佐藤真矢さんは、大学卒業後に大手証券会社に入社。将来的な起業を見据えてベンチャー企業の株式公開業務に携わった後、ビジネス運営を学ぶために外資系コンサルティング企業へ転職し、大きな転機を迎えます。社会貢献活動の一環として障がい者の就労施設を訪れ、そこで作られている木工製品・革製品・衣類などを見た時、「技術は素晴らしいのに、商品としての企画力(デザイン)が不足しているのではないか」と感じました。

 そこで、組織の内部に閉じたものではなく、より幅広い視点からデザインを生み出すためのコンペをWEB上で実施した結果、約1か月で380点ものデザインが集まり、製品を作るまでの支援を行いました(いくつかはequalto「イクォルト」というブランド名で商品化されました)。これが自身の目指すビジネスの原体験となり、TRINUS設立(2014年)へとつながっていきます。

 花色鉛筆の誕生は2016年。廃棄古紙が主原料の環境配慮素材をテーマとしたWEBオープンプロジェクトで集まったアイデアがきっかけでした。日本を代表する桜、紅梅、蒲公英(たんぽぽ)、常磐(ときわ)、桔梗(ききょう)の花のかたちとそれぞれの色を表現したもので、大きな特徴は本物の花びらのような削りかすが生まれること。その複雑な形状は通常の鉛筆に使われる木材加工では難しいため、「押出成型」によって作られており、約2年の開発期間を経て完成しました。

 ビジネスをスタートした当初から、海外マーケットを視野に入れるならば輸出しやすいように、そして誰でもどこでも使ってもらえるように、“片手で持てるもの”“電気を使わないもの”という2つの条件を満たす必要があると考えていた佐藤さん。「花色鉛筆はコンペ当初からダントツのアイデアでしたが、完成まではとても苦労しました。そしてPR雑誌への掲載から一気に注目を集め、新聞・TV・ラジオなどで紹介され、海外からの注文が入ってくるようになったんです」。

 国内では友人や子供に贈る美しいギフトや文房具として、また来日した外国人がお土産として購入するインバウンド需要としても人気を誇り、発売後約1年間で4万本以上の販売を記録。デザイン性の高さや素材のロスを出さない環境に優しい製造方法も評価され、国際的な権威を持つデザインアワードの一つであるiF Design Award2019(プロダクト-オフィス分野)、日本文具大賞2019、JIDAデザインミュージアムセレクションなどを受賞。NYの美術館のストア、フランスのセレクトショップや有名百貨店などでも取り扱われることになりました。花色鉛筆は、ユニークな技術とデザインを組み合わせることで、日本の価値を発掘し世の中に広げるという佐藤さんのビジョンが、まさに具現化された製品と言えるでしょう。

Chapter 02

JETROを通じた海外展示会への出展などから多くのニーズや課題を知る。

 「花色鉛筆の成功を単発で終わらせたくなかった」という佐藤さんは、削った後の花びら(削りかす)を使って自分だけのアートが作れるポストカードなど、関連商品の開発も行っていきます。同時に、新商品としてプランツジュエル(植物のためのジュエリー)やflerco note(フレルコノート/絶滅危惧種のスキンを日本の特殊印刷技術で表現したノートブック)を開発。フレルコノートは第31回日本文具大賞デザイン部門優秀賞を受賞しています。また、海外展開に向けても、様々な試みを行っています。JETRO(日本貿易振興機構)を通じた海外展示会などで現地ユーザーの声に触れ、商品開発のための課題やヒントを知ることができました。

 「環境問題に対する意識が海外では全く違っていました。花色鉛筆のパッケージは、一部(上下の蓋となる部分)に透明なプラスチックを使用しているのですが、ここも改良してほしいと。こうした意見は海外展開を行う上で、とても参考になりましたね。」

 また、企画とアイデア、技術をオープンに募集したり、佐藤さん自らが足を使って、“埋もれた技術や資源”を探したり、それらをマッチングさせながら製品開発を行うというTRINUS独自のビジネスモデルにも大きな手応えを感じていました。

 「花色鉛筆のヒットがありましたが、その後、類似製品は全く出てきていません。マネの出来ないユニークな素材と、それを活用する必然性のあるデザインの2つ成立した時、大きな差別化になるのだと実感しています。そして、製品化に向けて素材や技術を持つ人とデザイナー・クリエイターは同じ船に乗っている仲間のようなもの。その中でTRINUSが事業主体となってリスクをきちんと取ることも大切です」。

 デジタル化の進む現代において、WEBやSNSを通じたD2Cマーケティングも欠かすことができません。インスタグラムなどのSNSでは日本語・英語を使って商品を紹介し、海外から直接的な引き合いも増えました。WEBでは大手ショッピングサイトを利用していましたが、顧客データを自社で利用することが難しいことから、自社サイトでの商品販売へと大きく方向転換。ユーザーと直接つながり、データを分析し、打ち手を講じることで、ブランドの構築を目指していくことを決めました。

Chapter 03

人気フラワーショップとのコラボから生まれたアイテム。そして、暮らしの中に自然を取り入れ、四季を感じる時間を提供するブランド『SiKiTO(シキト)』の展開へ。

 以前からお付き合いのあった全国的な人気を誇る青山フラワーマーケットでの打ち合わせの際、「お店で人気のある“枝もの(枝を持つ植物)”を入れる器がない」という言葉が、新たなブランド構築への出発点となりました。枝ものはバランスを取るために大きな花瓶が必要で、部屋の中に飾るのが難しい植物。商品化に向けては、コンセプトから試作を重ね、製造工場探しに国内外を奔走するなど、2021年の販売までに約4年を費やしました。そして完成した長枝でも簡単に飾れる花器「EDA VASE(エダベース)」は、1週間で300個を売り切り、一躍人気商品に。しかしお客様から「EDA VASEを買ったけど、お花屋さんに大きな枝が売っていない」「大きな枝を抱えて電車で乗って帰ったり、自転車で運んだりするのが大変」という課題があることを知り、その解決こそが新たなビジネスチャンスになる、と佐藤さんは直感します。

 その後すぐ、佐藤さん自ら花卉市場での仕入れを学び、生産者とのつながりなども構築し、枝ものを定期配送する『枝もの定期便』をスタート(2022年3月)させました。切花より大きく、長持ち、鉢ものよりも四季折々の様々な表情が感じ取れる―と、多くのお客様から支持されるビジネスとなり、現在も成長・拡大を続けています。

 『枝もの定期便』は、花色鉛筆で実現できなかった「継続性」と「ユーザーとの直接的なつながり」という大きなポテンシャルを持つビジネスモデル。そして『枝もの定期便』を中心として、「四季のある暮らし」をコンセプトに、従来の自社オンラインサイトをリブランディングしてスタートしたのが『SiKiTO』です。これまでに開発した商品はもちろん、コンセプトに合致するアイテムや、新開発したハンドソープ、ドリンクといった商品も販売しています。また、『SiKiTO』というブランドを通じて日本の四季が持つ魅力を海外へ届けていくために、現地拠点の設立やサプライチェーン構築という新たな計画も視野に入れながら、佐藤さんの飽くなきチャレンジは続きます。

2024年9月。千葉県幕張に「SiKiTO CAFE」がオープンしました。コンセプトは“四季の移ろいを、愛おしむカフェ”。枝ものの心地よさをリアルに味わってもらいファンを増やすこと、そして飲食事業としても育てていくことが目標です。

「花色鉛筆を始めとしたビジネスの経験から、海外進出に必要な戦略や体制づくりなど、多くの学びや気づきを得ることができましたし、クリエイターとのつながりは会社の大切な資産です。まずは現在好調な枝ものをさらにスケールさせながら、人材を強化し、様々な仕組みを整えた上で、本格的な海外進出も目指していきたいですね」。

日本のユニークな技術や埋もれた資源・魅力を見つけ出し、クリエイティブな方法で発信するTRINUS。その唯一無二とも言えるビジネスモデルは、今後さらに大きな注目を集める可能性を秘めているのではないでしょうか。

 

 

文・三浦 孝宏

 

【SiKiTO公式サイト:https://sikito.com/】