世界中のファンと歩むグローバル展開の実践~バンダイナムコグループにみるデータ活用~
CASE STUDY No.38

世界中のファンと歩むグローバル展開の実践~バンダイナムコグループにみるデータ活用~

2026.05.01 更新

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手塚 晃司さん

株式会社バンダイ
執行役員
カード事業部 ゼネラルマネージャー

日本発コンテンツの海外展開が広がる中で、いま改めて問われているのが「世界のファンにどう向き合うか」です。アニメやゲーム、キャラクター商品はすでに世界中で親しまれていますが、国や地域によって受け止められ方は大きく異なることがあるといいます。日本で成功したやり方をそのまま持ち込めば通用するわけではありません。では、世界市場をどう捉え、ファンとの関係をどう築いていけばよいのでしょうか。 日本を代表するIPコンテンツをグローバルに展開企業するバンダイナムコグループの株式会社バンダイ執行役員の手塚晃司氏に、データ活用、海外展開、ファンや人材といった観点でお話をうかがいました。

取材日:2026年3月24日
※本記事の内容および取材対象者の所属・肩書きは取材日時点のものです。

Chapter.01 現場の成功体験から広まったデータ活用

バンダイナムコグループにおけるデータ活用は、最初から全社的な戦略として整備されたものではありません。出発点にあったのは、現場で直面した具体的な課題と、それを何とか解決しようとする試行錯誤でした。
そのきっかけとなった事例が、バンダイナムコエンターテインメントが運営するスマートフォン向けゲーム「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」です。

▲ドラゴンボールZ ドッカンバトル
©バード・スタジオ/集英社・東映アニメーション
©Bandai Namco Entertainment Inc.

手塚氏が当時プロデューサーとして関わっていたこのタイトルは、立ち上げ当初、期待した売上に届かず苦戦していました。コンテンツ自体には手応えがあるにもかかわらず、なぜ結果につながらないのかが分からない。そうした状況の中で、手塚氏が着目したのがユーザーのデータでした。
アプリゲームでは、ユーザーがどのタイミングで離脱しているのか、どこで操作に迷っているのかといった細かい情報を取得することができます。そうしたデータをもとに、ユーザー体験の中で問題が起きている箇所を徹底的に洗い出した結果、改善すべきポイントは200か所以上にのぼったといいます。

重要だったのは、データから見えたユーザーの体験上の難所を一つひとつ丁寧に修正していったことです。大きな方向性を変えるのではなく、細かな課題を潰していくことで体験までのハードルを下げたり、ユーザー満足度が高まることで、結果としてタイトルの売上は大きく向上し、結果としてタイトルの売上は大きく向上し、アプリのローンチからおよそ2年で約20倍の月商を記録するまで成長、事業として大きく成功します。

この成果は、グループのデータの価値に対する認識を変えるきっかけとなるものでした。従来は、プロデューサーやクリエイターの経験や感覚に頼る部分が大きかった意思決定に対し、データを用いることで「どこに課題があるのか」「何を優先して直すべきか」を具体的に把握できるようになりました。つまりデータは、答えを与えるものではなく、顧客体験の改善の優先順位を明確にするための手段として機能したのです。
この成功体験は、やがて他のタイトルにも横展開されていきます。別のアプリでも同様にデータを取得し、ユーザー行動を可視化していくと、タイトルごとの違いだけでなく、共通する課題も見えてきました。あるタイトルで継続率が高い理由を分析すれば、それを他のタイトルにも応用できる可能性に気づけたといいます。

さらにこの考え方は、アプリにとどまらず、家庭用ゲーム、映像、カード、玩具といった他の事業領域にも波及していきます。アプリ以外のように直接的なデータが取りにくい領域であっても、会員のログやアンケート、購買データなど工夫してデータを取得し、組み合わせることで、「どのような顧客が、どのような行動をしているのか」を把握しようとする動きがグループ内で広がっていきました。

ただし、同時にデータは万能ではない、と手塚氏はいいます。データを使うこと自体を目的にすべきではないと強調します。企画を考えるたびに必ずデータを見なければならないというわけではなく、必要なときに自然に使える状態であることが重要だと語ります。データはあくまでインフラであり、使いたいときに使えることに価値があるという考え方です。
この姿勢は、クリエイティブの現場に対する向き合い方にも表れています。エンターテインメントの分野では、作り手の感覚や経験が非常に重要です。実際に、クリエイターやプロデューサーの多くは、自分の感覚を大切にしています。一方で、自分の考えたものがどのように受け止められているのか、どう評価されているのかを知りたいという思いも持っています。

そのとき、データは感覚を否定するためのものではなく、「どのように受け止められているか」を可視化する役割を果たします。感覚とデータを対立させるのではなく、両方を組み合わせて判断する。この考え方が、現場の判断や行動に自然に組み込まれていきました。

この取り組みを支えているのが、事業単体/横断データ分析などを行うグループ会社バンダイナムコネクサスの存在です。一般的なデータ組織は、事業部の外側で分析し、結果を返す形になりがちです。しかしネクサスでは、各事業部に入り込み、担当者と同じ目線で目的や課題や想いを理解しながらデータを整備していきます。何に困っていて、なぜその情報が必要なのか。そうした背景を踏まえた上で、制作側が使いやすい形にデータを整えていく点に特徴があります。

▲バンダイナムコネクサス公式サイト

また、ネクサスの役割は成功事例の共有にとどまりません。うまくいかなかったケースも重要なデータとして扱われます。なぜ失敗したのかを分析し、他の事業で同じ失敗を繰り返さないようにする。この「失敗から学ぶ仕組み」も、データ活用の重要な価値の一つです。

バンダイナムコグループの取り組みは、高度な分析技術への傾注ではなく、「現場の課題から出発していること」に特徴があります。課題を可視化し、改善し、その学びを横展開していく。データはその過程で、問いを立てやすくし、意思決定の精度を高める役割を果たしています。 データは答えを自動で導き出すものではありません。しかし、どこに課題があるのか、どこを深掘りすべきなのかを示してくれます。そうした使い方こそが、バンダイナムコグループのデータ活用の本質といえるでしょう。

Chapter.02 世界市場を“同じ顧客”として見る発想

一般的に海外展開というと、日本と海外を分けて考え、それぞれに合わせて商品や戦略を調整する「ローカライズ」が中心になります。しかし、バンダイナムコグループではその前提が少し異なります。手塚氏は「日本と海外を分けて考えるというよりも、同じIPを楽しむ顧客として見ている」と語ります。

つまり、日本向けの商品、海外向けの商品という分け方ではなく、同じIPを愛する世界中のファンに対して、どのように価値を届けるかという発想です。そのうえで、地域ごとの違いを理解し、調整していくという考え方をとっています。
実際にデータを分析すると、同じコンテンツであっても国や地域によって大きな違いがあることが分かります。例えばカードゲームの領域では、同じカードを使っているにもかかわらず、日本と海外で流行するデッキ構成が全く異なるケースがあります。これは単なる好みの違いではなく、「どのように遊びたいか」という価値観の違いに起因しています。
さらに興味深いのは、その違いが現在の嗜好だけでなく、幼少期の体験に強く影響されている点です。どのアニメを見て育ったのか、どのゲームに触れてきたのかといった経験が、後の行動に影響を与えているといいます。つまり、現在のデータだけを見ても本質的な違いは分からず、その背景にある体験の積み重ねまで含めて理解する必要があります。
こうした違いは、表面的なデータだけでは見えてきません。データをきっかけに「なぜ違うのか」という問いを立て、現地のスタッフへのヒアリングやユーザーインタビューを通じて、その背景を深く探っていくといいます。
つまり、データと定性的な理解を行き来しながら、解像度を高めていくプロセスが重要になります。

▲GUNDAM CARD GAME
©SUNRISE
©SUNRISE・MBS

▲カードイベントの様子

このようにして把握した文化差に対して、バンダイナムコグループはどのように対応しているのでしょうか。興味深いのは、商品そのものを大きく変えるのではなく、「バランス」で調整している点です。
トレーディングカードの例として、ある国ではパワフルな表現が好まれ、別の国では一枚絵としての芸術性が重視されるといった違いがあったとしても、どちらかに寄せて国別につくるのではなく、全体の中で適切な割合を調整していきます。

この「ローカライズしすぎない」考え方も特徴的です。IPの世界観を維持しながら、各地域のニーズに応え、そのバランスを取ることが、グローバル展開において重要だといいます。
これらのデータ活用や考え方は、単に商品開発にとどまらず、事業戦略全体にも影響を与えています。どの地域でどのIPを強化するのか、どのタイミングでどの施策を打つのかといった判断においても、データと文化理解を組み合わせた意思決定が行われています。

Chapter.03 ファンを解像度高く捉え、事業と人材を育てる

バンダイナムコグループの事業を支えているもう一つの重要な考え方が、「ファンの解像度を高める」というアプローチです。
同社では「ファン」という言葉を一括りには捉えません。IPそのものが好きな人もいれば、カードゲームなどの商品体験が好きな人もいます。さらに年代や地域、嗜好によっても、その中身は大きく異なります。

そこで重要になるのが、ファンを細かく分解し、それぞれのニーズや属性を把握することですが、データを活用することで、どの層がどのような価値を求めているのかという精度をあげることがで、より高い解像度でファンを捉えています。ただし、解像度を上げれば上げるほどターゲットは小さくなるため、特定の層により強く刺さる商品は作りやすくなりますが、同時に事業として成立する規模を確保できるかという課題も生まれます。
そのため、どの層にどれだけ投資するかというバランスが重要になります。市場規模があり、かつ熱量の高いファンが存在する領域には大きな投資を行い、まだ小さいが可能性のある領域は育てていく、または小ロットからも実施できる強みを活かしてコアなファンに少量でも展開するといった判断をするなど、ファンの解像度を高めながら事業の設計を行っていくことにもデータが活用されています。

コンテンツのファンであることは、採用などの人材面でも大きな強みとなっています。バンダイナムコネクサスでは、データ分析のスキルに加え、コンテンツへの関心や理解が深い人材が活躍しやすく、自分が好きな作品に関わり、その未来に影響を与えられることに魅力を感じる人材が集まることで、より深い顧客理解と提案が可能になります。
また、コンテンツ産業全体においても、特別な能力以上に「好きであること」「届けたいという意志」が重要だと手塚氏は語ります。自分の関わったものによって世界中の人が喜ぶ、その実感を持てることが、この産業の大きな魅力です。

さらに、バンダイナムコグループは、自社だけで完結するのではなく、他社や他産業との連携にも積極的です。すべてを自社でやりきるのではなく、外部と組むことで可能性を広げていくという考え方です。
例えば、過去には保有するIPを外部に開放し、他の企業が活用できるようにする取り組みも行われてきました。また、町工場の技術とIPを組み合わせた商品開発など、異なる分野との協業にも取り組んでいます。

コンテンツ産業は、一つの作品を作るだけでも多くの企業やクリエイターが関わるため、制作現場を通じて自然とネットワークが拡がり、新たな協業の機会も生まれているといいます。手塚氏は、「意外と開いている業界であり、コンテンツは様々な業界と接続できるもの」だと語ります。
ファンを深く理解し、その期待に応え続けること。その積み重ねが、結果として世界中に広がるビジネスを支えているのです。

さいごに、海外展開と訪日体験の関係についても、興味深い示唆がありました。一般的には、「海外で認知を広げ、日本に来て特別な体験をし、そして海外現地でまた消費してもらう」という流れが想定されます。しかし手塚氏は、訪日による売上を直接的な目的としては捉えていないといいます。
重要なのは、その体験によってファンの熱量が高まり、長期的に作品と関わり続けてもらうことです。日本での体験はその一部であり、必ずしも唯一の接点ではありません。訪日することのハードルがまだまだ高い海外の方々も多い中、海外でも同様の体験ができる場を増やしていくことが重要だとしています。

実際に同社では、海外のイベントや展示会などを通じて、現地で日本のコンテンツを体験できる機会を提供しています。すべてのファンが日本に来られるわけではない中で、「現地で体験できる場」をつくることが、グローバルでのファンとの関係構築につながります。

今回のインタビューから見えてきたのは、バンダイナムコグループの事業が、単なるコンテンツ販売ではなく、「ファンとの関係をいかに深め続けるか」に軸を置いている点です。

データの活用もそのための手段であり、グローバル展開もまた、同じ考え方のもとに位置付けられています。重要なのは、どこで売るかではなく、誰に、どのような体験を届けるかです。 日本発のコンテンツはすでに世界中に広がっています。その価値をさらに高めていくためには、ファンを深く理解し、長期的な関係を築いていくことが欠かせません。バンダイナムコグループの取り組みは、その一つの実践例といえるでしょう。

文・鈴木 祥裕
取材日:2026年3月24日
※本記事の内容および取材対象者の所属・肩書きは取材日時点のものです。