食を通じた
ウェルビーイング型の
社会デザイン

Well-being Social Design Inspired by Food

公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事
石川善樹氏

2021年は、我が国にとって「ウェルビーイング元年」となった。その理由はいわゆる骨太方針や成長戦略のなかで、明確にウェルビーイングが位置付けられたからである。

たとえば骨太方針の中では、「政府の各種の基本計画等についてWell-beingに関するKPIを設定する」と明記された。それを受けた形で、内閣官房や文科省、厚労省、農水省、国交省、環境省、内閣府、消費者庁などが所管する、合計32もの基本計画においてWell-beingに関するKPIが設定された。この流れは2022年度以降も引き続き加速していくものと推察される。

あらためて述べておくと、ウェルビーイングとは「ある個人や社会において“よい”と知覚される体験や状態」のことを指す。それゆえ、決して固定化されたものではなく、時代や文化によって動的に変化しえる概念である。

さて、このなんとも捉えがたいウェルビーイングであるが、いうまでもなく何をもって「よい体験や状態=ウェルビーイング」とするかは、千差万別である。ゆえに「ウェルビーイングの形」を定義しようという試みは、研究者たちも早くにあきらめている。

では研究者たちは、いかにしてウェルビーイングに取り組んでいるのだろうか?一言で述べると、ウェルビーイングの「形」にこだわることなく、ウェルビーイングの「要因」を探っているのだ。つまり、何をもってウェルビーイングとするかは調査対象者に任せるとして、「その人が考えるウェルビーイングの形にどのような要因が影響していると思うのか」について、これまで半世紀以上にわたり各種調査が行われてきた。

すると面白い発見があった。それはウェルビーイングの形は人によって違うのに、ウェルビーイングの要因は共通するものが多く見られたということだ。たとえば、わかりやすい要因として「収入」がある。ある程度の収入は多くの人にとって重要な要因であるが、ではその収入を何に使ってどのようなウェルビーイングの形を目指すのかは人によって違うということである。あるいは、「社会の寛容度」という要因もある。つまり区別や差別をしない社会というのは、時代や文化を超えて、多くの人が重要と考えるウェルビーイングの要因なのである。

筆者はウェルビーイング分野の研究者のはしくれとして、日々どのような要因がウェルビーイングにとって重要なのか調査研究を行っているが、その一つに「料理頻度のジェンダー格差」がある。具体的には、社会全体をみたときに、ジェンダーによる料理頻度の格差が小さいほど、その社会のウェルビーイング度は高い傾向にあることを発見した。ほぼ全ての社会において女性の方が料理をしていることを考慮すると、つまりは「男性が料理する社会」はウェルビーイングだということを示唆している。

いま時代は、ダイバーシティやウェルビーイングが大きなキーワードとなっている。その中でたとえば「料理」というものが象徴的な行動の一つとなりえることを本稿では述べさせて頂いた。

公益財団法人Well-being for Planet Earth 代表理事
石川善樹氏