「食品ロス大国」
脱却を目指し、
世界に情報発信を

Breaking Free of Our Reputation as a Major Generator of Food Loss and Waste and Communicating Our Achievements to the World

国際ガストロノミー学会日本代表
FOOD LOSS BANK 代表取締役社長
山田早輝子氏

日本ではまだ食べられるにも関わらず捨てられる食物が年間約570万トン(農林水産省と環境省による令和元年度の推計値)もあり、世界第6位、アジアでワースト1位という不名誉な結果になっている。しかし一方で、日本には古来、モノを大切にする「もったいない文化」がある。SDGsという言葉が生まれるよりもずっと前から「いただきます」という言葉があり、「お米の中には神様がいる」など食事を最後までいただく事を美徳とする伝統があった。また、日本の得意分野である製造業の優れた企業は、耐久性が高く、長持ちする製品を作ってきており、多くの分野で大量生産大量消費とは異なるサステナブルなモデルを誇っている。この事と大量の食品ロスが存在する矛盾は、どこから来るのだろうか。2020年に「FOOD LOSS BANK」を立ち上げるきっかけになったのが、この疑問だった。つまるところ「平和な日本が原因なのではないか」という結論にたどり着いた。当事者意識を持ち難く「誰かがやってくれる」という思いがみられる。個人だけでなく、企業の中にも「とりあえずSDGsに取り組まなければならないから」と形だけ環境への配慮をしている「グリーンウオッシュ」だとして批判されているケースがある。また「そもそも気候変動なんて起こっていない」という不毛な論争まで繰り広げられている。一回の寄付や一度限りのSDGsイベントを行う事で行動を起こした気分になってしまうケースもあり、根本の問題は忘れられがちだ。結局はどれだけ一人ひとりが当事者意識を持ち行動に移せるかが重要なのではないだろうか。「食品ロスの問題はまず先に企業が行動を起こすべきなのでは」という考え方もある。確かに飲食業界、食品製造業界、流通業界等の責任も大きいだろう。しかし、年間570万トンの実に半数近くが家庭系からの廃棄なのだ。「私一人が捨てたところで大した影響はない」という幻想の積み重ねが、数百万トンにものぼるのである。私たちはもっと「一人の力」を信じるべきだろう。弊社の社名「FOOD LOSS BANK」の「バンク」には、「知識を蓄える場所」という意味がある。一人ひとりが食品ロスの正しい知識を蓄え行動すれば、塵も積もれば山となり、大きい力になる。みんなで行動を起こそう!という願いを込めている。海外で18年生活し、色々な文化やビジネスに触れ合ってきた経験から断言できるが、日本人は素晴らしい素養を持っている。「自分ごと化」さえできれば、食品ロスの対策はまさしく国民一人ひとりができる脱炭素社会への一歩なのである。もうひとつ課題に感じているのは、日本人がおおむね、情報発信が苦手なことだ。ことに良い事を伝えたい時ほど、自慢だと捉えられるのを恐れるなど発信が鈍くなる。地球は一つしかなく、全世界が繋がっている。気候変動に関する事象は「私だけ」の問題でもなく、自社だけの問題でもなければ、日本だけの問題でもない。世界にむけて、自分たちが果たしている責任を積極的に発信するべき事柄だ。世界への情報発信の取り組みとして弊社は昨年、国連食糧農業機関(FAO)の依頼を受けWorld Food Forumに向けて、日本のサステナブルな食のモデルを紹介する映像作品「マスタークラス」を6本製作した。映像はローマのWFFフィルムフェスティバルで上映され、現在も公式サイトとYouTubeで公開されている。この作品では、今世界で環境がどういう方向に向かっているかを知り、実際にその情報を元に行動に移している方々をフィーチャーしている。環境大臣、知事、経営者から子どもまで、様々な方にご出演いただいた。全体を通じて、日本人である前に同じ地球人として、国境や世代を超えて一緒に取り組んでいく事の大切さを示している。何か小さい事をきっかけに、実際に行動する初めの一歩を、一人でも多くの方が踏み出せる日本を皆で創っていきたい。当事者意識をもち、食品ロス大国を脱却して成果を堂々と発信し、他国の食品ロスの解決の糸口につなげられる日も遠くないと信じたい。

国際ガストロノミー学会日本代表 FOOD LOSS BANK 代表取締役社長
山田早輝子氏