UNWTOが推進する
ガストロノミー・
ツーリズムの未来

The Future of the UNWTO’s Gastronomy Tourism Initiatives

国連世界観光機関(UNWTO)
駐日事務所 副代表
鈴木宏子氏

UNWTOの調査によると、近年は観光名所を訪問することと同じくらい、訪問先で郷土料理を楽しむことを通じて、地域のライフスタイル・文化を味わい、体験することを重視する観光客が増加しています。これらの観光客は、本物志向が強く、平均以上に消費するという傾向があります。

ガストロノミーツーリズムとは、「その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズム」と定義されています。

アフターコロナを見据え、オーバーツーリズムなどのコロナ禍前の観光課題への反省から、SDGsへの取組がより重要となり、経済のみならず社会・文化、環境面も重視した「持続可能な観光」への関心が徐々に高まっています。ガストロノミーツーリズムは、地域の自然環境や農業、文化との関係が深く、誰もが参画することができ人々の健康や幸福にも貢献するといった特長を有し、持続可能な観光を達成できる有効な手段になります。

また、「食」は地域に由来する歴史的・文化的背景が育んだものが多く、地域の特色を出しやすいコンテンツであり、旅の大きな楽しみでもあります。観光庁の調査においても、訪日外国人が期待することの1位が「日本食を食べること」、6位が「日本の酒を飲むこと」となっています。

以上のことから、ガストロノミーツーリズムは、地域振興の手段として地方自治体も積極的に取組を行っています。

UNWTOは、ガストロノミーツーリズムが重視される理由として、①地域の差別化がしやすい、②訪問者に新たな価値観・体験を与えられる、③観光資源が乏しい地域でも始められる、④ストーリーを語りやすい、⑤再訪意識を促進するという点を挙げています。

ガストロノミーツーリズムに関するUNWTOの取組として、次の3点御紹介したいと思います。

1点目がUNWTOは、日本のガストロノミーツーリズムの優良事例として18のケースに焦点を当てた“Gastronomy Tourism – The Case of Japan”を2019年に発表しています。この調査では、基礎自治体1,741団体(回収数584)へのアンケート調査により、日本ではガストロノミーツーリズムに関する試みは、観光振興よりも、「持続可能な地域づくり」や「農業との連携」という観点から、総合的に取り組まれていること、また、官民連携についても、海外よりも積極的に取り組まれていることが明らかになっています。

2点目として、UNWTOは地域がガストロノミーツーリズムに取り組むに際し、指針となるよう、「ガストロノミーツーリズム発展のためのガイドライン」を2019年に公表しています。政府や地方自治体、DMO等の関係者に対して、地域におけるガストロノミーツーリズムの発展に向けて、企画・運営面において考慮すべき事項や取るべき行動や推奨事項について示した実践的なガイドラインとなっています。

最後に、UNWTOでは、「ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」という国際会議を世界各国で開催しています。2022年にはいよいよ奈良県において開催されることが決定しました。

本世界フォーラム開催を契機として、奈良県、関西、ひいては日本のガストロノミーツーリズムの多様性、先進性が世界に発信されるとともに、生産者、事業者、地域の人々をつなぎ、人々の心身の健康・幸福感を促進し、持続可能な社会の実現を目指すことを期待します。

国連世界観光機関(UNWTO) 駐日事務所 副代表
鈴木宏子氏