Model case 06

北半球・南半球での通年ぶどう生産で日本の農業とライフスタイルに変革をもたらす

自社事業の強みを「転換」。
社会課題の解決と
豊かな暮らしを実現する新たなビジネスを創出

株式会社GREENCOLLAR 大場修・小泉慎・鏑木裕介

世界から最高級品質として高い評価を得る日本のフルーツ。その裏側では、生産者の減少、高齢化や他国の台頭など数多くの課題を抱えています。 三井不動産発の社内ベンチャー企業「GREENCOLLAR」は2019年、三井不動産グループの事業提案制度「MAG!C」で採択され、誕生しました。季節が真逆の日本とニュージーランドの両国で日本品種の生食用ぶどうを栽培し、世界へ向けて販売する事業を行っています。 事業を通じて社会課題へ立ち向かうとともに、ホワイトカラーでもブルーカラーでもない、グリーンカラーという新たなライフスタイルを提案しています。

Chapter 01

不動産デベロッパーから、 はたけ違いのぶどう事業へ参入

 GREENCOLLARの事業内容は“北半球と南半球でのぶどうの通年生産と世界販売”。かつて三井不動産のオフィスビル部門に所属していたGREENCOLLARの代表3名による、一見すると本業とはかけ離れた提案でした。
 「なぜ三井不動産がぶどう事業?というご質問をよくいただきますが、長年街づくりを通じて様々なライフスタイルに寄り添い、提案し続けてきた三井不動産の新たな提案です。」
 「ぶどう事業は初期投資が重く資金回収が遅い。個人にとっても企業にとっても参入障壁が高いです。一方で稼働した後は長期間にわたって比較的安定した収益得られる。この点がデベロッパーの事業構造と似ています。」事業を紐解いていくことで参入した理由が見えてきました。
 日本の葡萄は品質が高く、国内外でも高級品として認知されてるものの、実は目に見えていない多くの課題を抱えています。
 ぶどう栽培は繁忙期と閑散期の仕事量の差が大きく、通年雇用や技術習得の大きな壁となっており、就農を希望するものの、通年での雇用先がなく断念するケース、就農したものの技術力が身につかないために辞めてしまうケースが多く見られます。また近年人気のシャインマスカットは苗木の流出などにより他国での栽培面積が飛躍的に増加し、「日本品種のぶどう」であるにも関わらず、世界のマーケットで日本は他国の後塵を拝しています。将来を担う新品種の開発は、他国も積極的に進めており、国際競争力の低下が懸念されています。
 GREENCOLLARでは品種開発から生産、販売までを行う垂直統合型の事業体制を推進することでこれらの問題に立ち向かっています。季節が逆の2拠点で生産活動を行うことで、安定した通年雇用、早期の技術習得を実現し、「日本品種」と「日本品質」の優位性をアピールした『極旬』という自社ブランドで世界へ向けて販売することで、その認知と価値を高めています。新品種の開発にもチャレンジし、日本の品種開発を活性化させることを目指しています。
 収益性と社会課題を解決していくことが今、日本の大手企業の新規事業に求められる姿ではないでしょうか。

Chapter 02

しぜんと、生きる。 農業を通じた新たなライフスタイルを 実現する会社へ

 「GREENCOLLARでは『しぜんと、生きる。』をヴィジョンに掲げ、仕事とプライベートの境目を良い意味で融合させたグリーンカラーという新たなスタイルを提案しています。」
 社会が全地球規模で「Wellbeing(人間の本来の豊かさ)の追求」に向かっている中、自社の社員だけではなく、農園に遊びに来てくれる方、ボランティアに来てくれる方にもこのスタイルを体験してもらうことで、農業が身近になり、イメージを大きく変えることができると考えています。地方への移住、2拠点居住や副業をする方が増加する中、GREENCOLLARをきっかけとして少しでも農業に興味をもってもらい、農業をじぶん事ととらえてもらうこと、自分も農業やってみたい、携わってみたい、と思ってくれる人を増やすことが農業の底上げには大切です。
 大場氏は、「大規模化、効率化、高付加価値化を成功させ、高収益事業を作ることを前提にしながらも、人の手でできること、やるべきことは大切にし、大自然の中で頭や体、感性を使って、楽しみながら仕事をするということを大切しています。それは結果的に魅力的なぶどうを作ることにもつながります。」と話します。
 人間らしく生きるとは何か?定年後はリタイアという従来のサイクルが変化している日本において、この新たなスタイルは目指すべき方向のひとつ、といえるのではないでしょうか。

Chapter 03

ワンチームで周囲を巻き込み、 前進を続ける

 GREENCOLLARは大場修氏、小泉慎氏、鏑木裕介氏の3名が代表ですが、物理的に離れた場所でそれぞれの強みを活かし事業を推進しています。大場氏は山梨でぶどうの生産やグリーンカラーというスタイルの基礎を作り、小泉氏はニュージーランドでぶどうの生産や農園建設の指揮執りを、鏑木氏は東京で経営管理や今までの農業ではあまり見られなかったブランドづくりに従事しています。年齢、個性、得意分野が異なる3人強みを活かしつつ、お互いを補完しあいながら事業を進めているのが特徴的です。この3人が事業の実施を決意したきっかけは、葡萄専心株式会社の代表取締役である樋口哲也氏との出会いでした。2014年からニュージーランドに進出し、ゼロから道を切り開いた樋口氏の「日本のぶどうづくりの技術を絶やしてはいけない」という想いと、おおらかな人間性に強く惹かれたところから事業の検討が始まりました。
 「自身たちが積み重ねたキャリアを活かし、ぶどうづくりを通じて地域を活性化したい。」強い思いを持った若手社員もGREENCOLLARに加わりました。フランスでワイン作りの修業をしていた社員、元陸上自衛官だった社員、音楽活動をしながらぶどうの生産している社員。そのバックグラウンドは多様性にあふれています。魅力的で情熱あふれる社員も一体となり、世界へ挑んでいます。また、元ラグビーニュージーランド代表で元ラグビー日本代表のヘッドコーチでもあるジョン・カーワン氏もこの事業に共感し、GREENCOLLARのExecutive Adviserに就任しました。
 高品質なぶどうを栽培するための技術と自然との共生。今まで経験がなかった会社経営の重圧など、挑戦の日々です。社内では互いの特性を活かしつつ、補完しあい、樋口氏やジョン・カーワン氏をはじめとする数々のパートナーを巻き込みチームで同じ目標に向かって突き進むことが、成功に向けた原動力となっているのです。

今回の取材でなにより印象に残ったのは、みなさんの笑顔です。どんな苦労話も笑いと共にあり、挑戦に対する心からの情熱が伝わりました。そして多彩な才能を持つメンバーがもてなしてくれた壮大な自然の中の音楽の生演奏や釜戸を使った美味しい食事に、私もまぶしいくらいの笑顔になりました。
実は日本やアジアでは高級フルーツを贈ることは普通ですが、欧米ではその習慣がありません。ブランディングが成功すれば、飛躍的に世界にマーケットが広がる可能性を感じます。そして次に続くフルーツの仕掛けや、地域事業者との共同農業など。次々と同社が提唱する新しい働き方は憧れの産業となり、日本が目指すべきライフスタイルとなるでしょう。
文・大木淳夫

【GREEN COLLARホームページ: https://greencollar.co.jp/】