Model case 09

必要なのは編集力

“ピンチを機会に変える” 営業手法を「修正」し、売上を約3倍に拡大

オタフクソース株式会社 洪輝星 協働パートナー 株式会社TSSプロダクション 白神道空

欧米、アジアなど世界中に“コナモン文化”を発信しソースを輸出するオタフクソース。対面営業で販路を開拓してきましたが、コロナ禍においてその営業手法が奪われました。海外営業部部長の洪輝星さん率いるチームは「現地の人とつながらなければ生き残れない」と奮起、オンライン料理教室やYouTube配信を行い新規販路を開拓、海外売り上げ前年比1.4倍を達成。成功の裏にはコンテンツ制作を起点とし海外の販路開拓を支援するTSSプロダクションとの強力なタッグがあったといいます。地方の企業であってもメディアを活用すれば現地の小売店や消費者とダイレクトにつながり販路を開拓できる。ローカル企業が達成した成功事例とは。

Chapter 01

コロナ禍で売り上げは半減。 作戦は「自らがメディアになる」

 今年創業100周年を迎えるオタフクソース。お好み焼きは戦後の復興を支えた広島県民のソウルフードとして愛されてきました。「粉と野菜というシンプルな材料で作ることができ、世界中でその食文化に合わせてカスタマイズできるお好み焼きを世界中に広めたい」と同社は1998年にアメリカに法人を設立。海外で開業を志す現地の人に店舗経営のノウハウを伝える研修も行い、現在海外にはお好み焼きをメインとする専門店は約400店舗に。海外営業部のメンバー6人はそれぞれに担当国を持ち、主力製品の「お好みソース」を欧米、アジアなど50カ国以上に輸出してきました。
 海外営業部の主な営業手法は対面によるもの。「1年の3分の1は海外出張をし、営業や商談を行っていました」と、海外営業部部長の洪輝星さん。ところが新型コロナ感染拡大とともに対面の機会は失われ、一時は売上額が半分以下になるという事態にまでなったのです。
 主要な取引先のある海外都市は軒並みロックダウンとなりました。「取引の7割はレストランやお好み焼店様などの業務用が占めていました。私たちも、初めてのテレワーク体制となり戸惑いました」と洪さん。部員で対処策を「オンラインで」相談。これまで3割だった家庭用の比率を上げないと売り上げがたたない、お客さんとつながらなければ生き残れない――。
 打開策として海外営業部が試みたのは、「自らがメディアとなる」ことでした。そこでSNSで150以上のレシピを発信し、同時にオンライン料理教室も開催。ECサイトと紐付けをします。時差のあるヨーロッパでは現地料理講師が、時差の少ないオーストラリアやシンガポールでは部員自身が講師に。さらに部員自身で企画、撮影、編集を手がけ、80本以上のYouTube配信も。また、フランスの人気YouTuberに配信してもらったお好み焼きレシピ動画は9000回視聴され、スイスやイタリアからもコメントが寄せられました。

Chapter 02

動画コンテンツを核に 中小事業者の海外展開を支援する

 フランスにおけるYouTube配信では事前に現地小売店やバイヤーに告知を行い「消費者だけでなく営業先にも一気にリーチできたことで、以降も良好な関係が続いています。コロナ禍が起こらなければこのような発想は生まれませんでした」と洪さん。2021年、対海外売り上げは141%アップを達成することができました。
 実は彼らの「自らがメディアになる」という取り組みの背景には、テレビ新広島が100%出資する番組制作会社、TSSプロダクション(以下、TSS)と積み上げてきた実績がありました。TSSプロダクションは動画コンテンツを起点とし、海外での販路開拓を支援する事業を行う広島の制作会社。2007年に海外向けの観光番組の制作を開始したものの「収益につなげる仕組み作りはできませんでした。そこで、フランスで寿司に変わる日本食ブームをお好み焼きで仕掛けよう、とビジネス展開を始めた。そこで洪さんと出会ったのです」と白神道空さん。
 2012年にTSSはフランス人気番組と連携し広島お好み焼きのプロモーションを実施。一方、洪さんらはトゥールーズやパリで実演販売をし、店舗は長蛇の列に。お好み焼きの認知度が一気に高まり、2014年にはフランスでの売り上げが2年前の3倍にアップしたといいます。
 この経験を基礎に海外での知見を増やしたTSSは、地方の中小事業者の海外での販路開拓支援をする事業「Japan Foodies Choice」を設立。「地方には優れた商材を扱う中小事業者が多数あります。しかし、海外現地語が話せない、輸出における規制、販売方法や販売ルートを知らない、経営資源が足りないなど多くの壁に阻まれています」と白神さん。そこで、オンライン商談やプロモーション活動に必須のショートムービーを制作し、現地でのテスト販売や販路開拓を支援。京都の食メーカーとの取り組みではコロナ禍にも関わらず取引件数は目標達成率288%という快挙を成し遂げました。

Chapter 03

「モノはコロナ下でも売れる」。 ビジネスチャンスは海外にある

 当初は観光をターゲットにしたもののマネタイズできなかったために地元業者と現地小売を結びつける事業へと切り替えたTSS。白神さんは、「コロナ禍で実感しました。観光はヒトが動かないとビジネスに結びつきませんが、モノ(食)であれば確実に売れる。手応えを感じました」と言います。
 フランス、ベトナム、アメリカ、タイなどこれまでの多地域展開の経験から、国によって売れるもの、売れないものがあることや、レストランに売り込む前に輸入業者にアクセスし試食やレクチャーを行うほうが出荷量を増やす効果が高い、など知見が蓄積されてきたといいます。「私たちが行っているのは、最も見られる時間に適した番組を配置する編成局のような仕事」と白神さん。現地ニーズの土地勘を持ち、フットワーク軽く動く。今後も“ローカル制作会社でありながら商社機能も持つ”というユニークな事業を広げていく予定です。
 一方、コロナ禍を経て業務用から家庭用へと販売先の転換を迫られたオタフクソース「海外事業部」は、かねてよりその価値を知っていたメディア発信を最大限に活用し、「家庭への周知」という目標を達成しました。「自分たちで制作したコンテンツを介して世界の400店舗のお好み焼店様ともつながり続け、彼らが現地での営業マンの役割を担ってくださいました」と洪さん。2020年には小売り用商品をリニューアルしヨーロッパで要望の多かったビーガンに対応。2021年4月のEUにおける加工食品の規制の変更にもいち早く対応しました。
 海外にはビジネスチャンスが数多く存在します。特に成長が見込まれるアフリカ市場において、今年はケニアに初出荷、さらなる販路拡大を狙います。粉と野菜に現地の食品を組み合わせる、というシンプルでわくわく感のあるお好み焼きは、まだまだ世界にファンを広げていきそうです。

オタフクソース、TSS。いずれも「想定通りに行かない」という課題に直面したときに、「捨てられないものは何か」、「どこに顧客は存在するのか」を冷静に見極めたことが海外における成功という結果をもたらした事例です。すでにある商品力やコンテンツ力にあぐらをかかず、「さらにアプローチすべきことは何か」を探しに行く行動力がイノベーションを引き起こしたといえます。地方には多くの商材が存在し、海外にもそれを求める輸入業者や消費者が存在します。「海外に販路を広げたいけれどその体力、行動力がない中小事業者に手を差し伸べたい」というTSSのような仕組み作りが今後いっそう求められていくはずです。 
文・柳本 操

【オタフクソースホームページ: https://www.otafuku.co.jp/corporate/】