Model case 16

『SUSHI×TECHNOLOGY』で、世界に。金沢から食文化の未来を拓く

回転寿司の価値と可能性を「拡大」し、
世界中へ“旬の味と職人技”を届ける

株式会社エムアンドケイ 金沢まいもん寿司 代表取締役 木下 孝治

加賀百万石の歴史と文化を肌で感じられる兼六園、金沢城、長町武家屋敷跡。そして日本海の海の幸を味わう食文化で知られるのが北陸の地・石川県金沢市。「高級回転寿司・グルメ系回転寿司」のトップランナーとして多くのメディアで取り上げられ、絶大な人気を誇る“金沢まいもん寿司”は、2000年に金沢市で誕生しました。 金沢まいもん寿司を運営する株式会社エムアンドケイは、今、金沢を舞台として、日本の食文化=SUSHIの可能性を世界中へ拡大しようとしています。金沢まいもん寿司の先を見据える独自の戦略――それは、日本だけでなく、世界中の「食」に大きな影響を与える可能性を持っています。

Chapter 01

業界の常識にとらわれないアイデアとこだわりが、 新しいビジネスモデルを生み出す。

 「自分で寿司を握ったこと、料理をしたことがない」と公言する、株式会社エムアンドケイの代表取締役・木下氏。一級建築士の資格を持つ外食産業では異色の経営者です。若いころから食の世界に興味を持ち、鮮魚店を運営後の1999年に「金沢でかねた寿司 八日市店」を開業。同時に株式会社エムアンドケイを創業し、2000年に「金沢まいもん寿司」を開業しました。
 「当時の外食業界に課題感を持っていたことが、回転寿司業界に進出した大きな理由の一つなんです。私は本当に自分が食べたいもの、家族に食べてほしいものを提供しようと考えました。これは今でも経営の全ての原点です」。
 金沢まいもん寿司では、のどぐろ(アカムツ)、白エビ、ばい貝(エッチュウバイ)といった、他では見ることのできない新鮮な日本海の海の幸を味わえます。それを店舗で一から捌き、お客様に提供する職人は、一流の技に加えてホスピタリティ・接客力に優れた人財という徹底したこだわり。さらに店舗自体にも、木下氏の一級建築士ならではのアイデアが随所に活かされています。お客様に非日常空間を感じてもらうため、「雅(みやび)」をコンセプトとして、加賀百万石を想起させる茶屋建築で見られるベンガラの赤、輪島塗の黒、そして金箔の金色で彩色を施すことで、独特の存在感を放つ仕上がりに。
 “旬の食材”と“職人技”と“店舗デザイン”の融合――木下氏は業界の常識にとらわれないアイデアとこだわりで、金沢まいもん寿司という新しいビジネスモデルを生み出しました。回転寿司そのものの価値を変えたといっても過言ではありません。
 国内では20店舗を超え、台湾にも1店舗を構える成長を遂げていますが、「未来のことを考えるのが楽しいんです」と語る木下氏。まだまだその未来戦略は始まったばかりでもあります。
 「創業時から、日本の食文化を世界に広めたいと考えていました。日本には誇るべき文化や歴史・伝統がたくさんありますし、特に金沢は文化への造詣がとても深い都市です。寿司と同時に、そうした日本の様々な文化を付加価値として発信していきたい」。

Chapter 02

SUSHI×TECHNOLOGY 食文化の可能性を拡大する。

 2022年。エムアンドケイは未来戦略の一環として、中東のドバイに現地パートナー企業と共同で寿司製造拠点を開設。それを皮切りに、旬の食材を使用して日本で製造した本格寿司を冷凍コンテナで世界各地へ供給するという、前代未聞の海外進出プランの実現に着手しました。
 「以前から方法を模索していましたが、やっと作り立ての味と遜色ない解凍技術のノウハウを手に入れることができました。飛行機の機内食や世界各国の高級スーパーマーケットのテイクアウト用などを視野に入れた営業活動やマーケティングを積極的に行っているところです」。
 日本の店舗で味わう寿司と変わらない「本物のSUSHI」を世界へ届ける。そんな大きな夢が、冷凍寿司という新たなテクノロジーによって、現実となる日が近づいています。また、安定して供給するために、食材確保に向けた付加価値の高い魚介類の養殖なども重要になってきますが、M&Aによって水産加工会社などをグループ企業として迎え入れており、その準備も万端です。
 一方で、食資源という観点から考えた時には、「サステナビリティ(持続可能性)」へのコミットが欠かせません。ここでも最新テクノロジーを活用し、魚食系タンパク質の生態保全のための魚の顔認識ソフト開発、トラッキング技術によるサプライチェーン網の見える化・最適化などを推進。輸出戦略については、多くのノウハウや知見を持つ大手商社と連携して進めていく予定です。「世界進出を行っていくなら、企業としてのビジネス姿勢も世界基準で示すべき」と話す木下氏の眼差しからは、経営者としての確固たる矜持が感じられました。
 旬の食材と職人技による本物のSUSHIが日本の食文化のプラットフォーム的役割となることは、外食業界や水産業に留まらず、日本の産業全体へ大きな影響を与えることになるでしょう。日本の食文化が持つ力と価値の素晴らしさを私たち自身が改めて認識すること。それは、30年近く「食」に携わってきた木下氏自身の願いでもあります。

Chapter 03

「まいもん(美味いもん)」を 世界に通用するブランドへ。

 “まいもん”とは、能登弁で「美味いもん」を表す言葉。そこには「本当に自分が食べたいもの、家族に食べてほしいものを提供しよう」という創業時の想いが込められています。過去20年の間に、日本、そして外食業界には多くの変化や危機が訪れました。木下氏が率いるエムアンドケイも、決して順風満帆だったわけではありません。幾多の失敗を経験しながらも、それを乗り越えてきた原動力は人財、すなわち従業員です。
 誇りとプライドを持って働いてもらうために注力するのは、人財育成。ホスピタリティや職人の技量向上のための研修を充実させ、現場の自主性を高めて裁量権も積極的に移譲しています。
 「企業の付加価値や差別化の源泉となるのは人財に他なりません。ですから、人財育成にかける時間と投資は惜しまない。そして、人財育成と同じぐらい大切なことが、会社の魅力づくりです」。エムアンドケイが世界で活躍する企業になれば、従業員をワクワクさせることができる。一人一人が将来の夢や希望を持って働ける環境を用意するのが経営者としての責任だと、木下氏は語ります。
 現在、エムアンドケイグループの関係会社は15社、店舗や工場などを合わせて48施設に成長しています。今後はSUSHIが持つ食文化の素晴らしさを世界中に拡げるべく、各国への進出を構想中。これまでアジアが中心だったインバウンドについても、ヨーロッパの富裕層へのワントゥワンマーケティングによる新たな需要の掘り起こしを狙う戦略が、従業員主導で進められています。
 こうしたグローバル展開を進める中で木下氏が目指すのは、寿司に加えてデザインや企業イメージも含めたサービス全体の価値を高めた“まいもんブランド”の確立。1つのパッケージ化された商品を世界に発信することで、同業他社との差別化を行い、グローバル競争に対峙できる強い企業へと進化させていくことです。
 「海外進出、地域再生、社会課題の解決…私にはやりたいことも、やるべきことも、まだまだあります。自分がまず挑戦して道を作れば、あとはきっと次に続く人がやってくれるでしょう」。
木下氏は、満面の笑顔で、そう締めくくってくれました。

日本の食文化を象徴する寿司=SUSHIは、今や世界の共通言語となっています。だからこそ、本物のSUSHIが持つ価値をブランドとして昇華させることが、日本にとっても大きな意味を持つことになるはずです。
業界の常識や固定概念を軽々と超えていくアイデアと実行力で、回転寿司に新たなビジネスモデルを確立した木下氏。次は世界を舞台として、どんなビジネスやサービスを生み出していくのか。そこには、“未来に向けた日本の食文化”を見ることができるかも知れません。
文・三浦 孝宏

【株式会社エムアンドケイ(金沢まいもん寿司)公式サイト: https://www.maimon-susi.com/】