Model case 13

新しい価値、「瀬戸内テロワール」の創造

地域の人々と紡ぎだした
瀬戸内のテロワール(風土)の魅力を
日本全国へ、世界へ発信

瀬戸内醸造所株式会社 代表取締役社長 株式会社フォーシー 代表取締役 太田祐也

日本でいちばん海に近いワイナリー「瀬戸内醸造所」は、2021年広島県・三原市須波の造船所跡地に誕生しました。目の前は、瀬戸内海でも有数の多島美といわれる三原瀬戸。建物が風景を切り取り、どの場所にいても美しい絵画のような風景が広がる瀬戸内醸造所は「SETOUCHIを旅するワイン、SETOUCHIを旅するワイナリー」がコンセプト。産地ごとの特徴を活かし、補糖をせず果実の味わいと生産者の想いを大切にワインやシードルが造りだされています。併設されたレストラン「mio(澪)」では四季折々の瀬戸内の食材と、山の恵みから誕生したワインやシードルとのペアリングが楽しめ、瀬戸内海の新しい観光スポットとして注目を集めています。 太田さんは家業を継いだわけでもなく、飲食業やワイナリーを経営した経験もありません。まったくゼロから創造する時に大きな力となったのは、「地域との共創」だと言います。

Chapter 01

地域の一次産業、食文化を 次の時代に継承するために。

 全国的にあまり知られていませんが、広島県は全国でも有数の食用ブドウの産地。しかし近年では、農業従事者の高齢化により、栽培技術の継承が困難になり休耕地が目立ち生産量も減少しています。
 太田さんは三原市出身。大学進学を機に上京し大学院で法学を学んだ後、コンサルタント会社へ就職。26歳で株式会社フォーシーを立ち上げ、地域創生のコンサルティングに携わってきました。「DMOの設立サポートや観光ブランドの創出などに取り組んでいるにもかかわらず、農家の高齢化が進み、担い手不足で技術が伝承されず、耕作放棄地が増えている。これでは意味がない。何とかならないか」そんな想いを抱えていました。
 そんな中、2017年5月、しまなみ海道をサイクリングし瀬戸内海の美しい島々を見ている時に「この島ごとにお酒があったら楽しいだろうな」と突拍子もないアイデアがひらめきます。
 ワインは製造工程がシンプルで土地の個性が表現しやすいお酒だと言われています。同じ種類でも産地によって味わいが異なる面白さがあり、その土地の歴史、ストーリーを伝える手段として最適なもの。瀬戸内の風土(テロワール)を表現したワインを造り、ワインを通じて土地の魅力を国内・海外に発信することで、地元の農業と食にシナジーを与えたい。強い想いが太田さんを動かしました。

Chapter 02

共創の出発地、三原市高坂町。

 三原市の高坂町は「佛通寺ブドウ」と知られるニューベリーAの産地。農家さんを訪問し、ワインをつくるブドウを分けてもらうことからこのプロジェクトが始まりました。
 「私が突然、農家さんに行って『ワインを造りたいので、ブドウを分けてください』とお願いした時は、「あいつ、何を言うとるんじゃ」、「ワインって、つくれるんかいの」という雰囲気でした」
ところが1本目のワインができたことで、変化の兆しが起こりました。
 「地元のブドウで造ったワインということでメディアに取り上げられ、それまでシャインマスカットなどに押され気味だった高坂町のニューベリーAの売上が急増。『もう一回、このブドウにも可能性があるんじゃないか』、『太田と一緒にやっていれば、面白いことになるんじゃないか』と農家さんのあいだで、そんな空気が広がったんです」。
 2018年から委託醸造したワインの販売をスタートさせ、2021年3月に、ついにワイナリーとレストランが完成。三原市高坂町を出発点に、今では竹原市や他の瀬戸内の産地と連携して「三原 ニューベリーA」、「高野 シードル」など、その土地のラベルとしてワイン、シードルを製造しています。
 「初めてこの土地を見た時に、ここしかないと思ったんです」と惚れ込んだ土地の取得が難航し2年かかったり、助成金の申請や金融機関との調整など完成までには様々な壁がありました。「絶対につくるという強い想いで一歩踏み出し、まずカタチを作ることが大事。何もない段階ではなかなか信頼は得られません。私が地域の可能性・価値を瀬戸内醸造所というカタチにしたからこそ、今では農家さんが『あんたんとこが、うまくいかないけんのよ』と期待して、力を貸してくださる。いま「地域との共創」を実感しています」
 ワイナリー、レストランを設計したのは建築家 菅原大輔氏。「物語る風景」をコンセプトに、瀬戸内の海と山、元造船所の遺構などの風土を建物が切り取り、美しさを際立たせる工夫が随所になされています。
四季折々の豊富な瀬戸内の食材を使ったメニューを監修するのは瀬戸内出身でもある東京・代々木上原「アトリエフジタ」のオーナーシェフ・藤田善平氏。ワイナリーの立ち上げを担ったのはフランス・ブルゴーニュの由緒あるドメーヌ「シモン・ビーズ」で学んだ高作正樹氏。家具、カトラリーは、地元・三原市の家具・建築工房サクラサクによるものです。細部までこだわり抜いた各領域のプロフェッショナルとの共創も、瀬戸内醸造所に大きな力を与えています。

Chapter 03

地域の課題解決につながる、 サステナブルな取り組み。

 瀬戸内醸造所は、地域と対話しながら農業がサステナブルな形になっていくことを目指しています。
寒暖差がはげしい広島県庄原市は、大正時代からのリンゴの名産地。2021年、農家からリンゴの花芽に霜がついているので今年は収穫量がかなり減るという連絡があり、太田さんはすぐ畑に駆け付けました。すると畑に普段見ているリンゴより明らかに小さな実をいっぱいにつけた一本の木が目に入りました。それは授粉用のリンゴの木でした。
 「農家さんから『すいい(酸っぱい)けん、食えんよ』と言われたのですが、この酸っぱさはお酒にするといいと思い、正規の値段で購入しシードルを製造。これが美味しかったんですよ」。
形や大きさ、時期が過ぎたものも正規の値段で買い取る。苗木を農家に渡しできたブドウを全量買い取るなど、農家の収入の安定化と担い手不足の解消を図っています。また自ら耕作放棄地を活用しブドウ栽培をスタートし、生産者と同じ目線で共に歩んでいきます。レストランではテロワールを表現したいという想いとフードマイレージの観点から、近隣でとれた食材で作り上げ、市場では値がつかない規格外も活用。フードロスを限りなく減らすため予約制です。
 コロナ禍でのオープンとなり本格的な海外市場の開拓やインバウンド誘致はこれからですが、海外のバイヤーからの評価は高く、越境ECの仕組みなどを導入し、まず中国、タイなどアジアをターゲットに取り組んでいく計画です。「日本ワインというカテゴリーを確立していきたい。地域の皆さんと共創した『瀬戸内のテロワール』を、どんどん世界へ発信していきたい」と太田さん。地域との共創のストーリーは、続いていきます。

瀬戸内醸造所の目の前にある小佐木島は、昔は造船でにぎわっていましたが、今は90歳代の住民4人がひっそりと暮らす島です。「島を歩いていると、日本にはわずかしか自生しないと言われている、あるお酒の原材料が自生していると教えてもらったり、無農薬で柑橘を栽培していたり、新たな発見があります。地域はフロンティア。島の営みに紐づいている食材、食文化を次の世代に継承していくためには、まず自分たちが楽しみ、地域を知ることです」と太田さん。小佐木島の植物を使った新たなお酒の製造、アイランドホッピング、リトリートなど、これから地域と共創していきたいテーマが山ほどあると言います。
一人の想いが地域を巻き込み、その魅力を最大化することが地域の課題解決につながる。人が集まる場所となる。そんな「共創」が日本全国にたくさん生まれれば、日本の風景も変わっていくのではないでしょうか。
文・兼松真理

【瀬戸内醸造所ホームページ: https://setouchijozojo.jp/】