Model case 05

ザ・リッツ・カールトンというブランドが担保する、地元栃木の文化と食材のクオリティ

"栃木 日光の歴史と
食・食文化マーケット"の
ブランドの「統合」

THE RITZ-CARLTON, NIKKO ザ・リッツ・カールトン日光 細谷真規・早坂心吾・田中基規

奥日光・中禅寺湖畔に、2020年7月にオープンした「ザ・リッツ・カールトン日光」。ユネスコ世界遺産に登録されている日光の社寺や、豊かな自然、文化など、古い歴史と伝統のある土地に誕生したラグジュアリーホテルは、今や満室の日も多く見受けられる日本でも屈指の人気のホテルとなっています。 実は、栃木県奥日光は日本最古といわれるリゾート地。そこに誕生した最先端のホテル「ザ・リッツ・カールトン日光」。その魅力の理由は、世界的にも評価されているサービスだけではなく、食をはじめとした、宿泊ゲストに提供するアクティビティ、館内デザインやそのディテールに至るまで、徹底した地元との融和と共存、エコシステムの構築への努力にありました。

Chapter 01

インターナショナルな ラグジュアリーホテルと地方との共存

中禅寺と二荒山神社の間に位置し、中禅寺湖と男体山を一望する絶好のロケーションに建つホテルの敷地は約1万9千平方メートル。客室は94室で、全室57平方メートル以上のゆったりとした造りです。周囲の森林との一体感を生む木を基調としたインテリアは、日本の繊細なミニマリズムが体現された落ち着いたデザイン。日光彫りや鹿沼組子、益子焼など栃木の伝統工芸が随所に取り入れられ、地元の文化を洗練された形で体感することができます。
また「ザ・リッツ・カールトン」初の温泉も完備し、各部屋には“縁側”に見立てたラウンジスペースがしつらえられ、雄大な日光国立公園の景観と室内をシームレスに繋ぐ空間となっています。海外のゲストはもちろん、日本人も気づいていない日本の良さを日本人にも伝えたい。総支配人の細谷真規氏をはじめとするスタッフのそうした強い思いが随所に込められており、インターナショナルな空間の中に、和が無理なく溶け込む空間となっています。
メインダイニング「日本料理 by ザ・リッツ・カールトン日光」は、朝食、昼食、夕食が楽しめるオールデイダイニングで、寿司や鉄板焼のカウンターもあります。ここでの最大のこだわりは、地元栃木県産の食材です。栃木県は優れた農産物や畜産物に恵まれた豊穣な土地。四季の変化が大きいため、季節ごとの旬な食材が非常に豊富です。それをもっと多くの人に知ってもらうべく、生産者との密なつながりを大切にし、地産地消を強力に推進しています。たとえば牛肉は、独自の飼料でホテルのためだけに地元で飼育された黒毛和牛を使用。地域を巻き込み生産者と連携することで、栃木産の食材を「ザ・リッツ・カールトン」ブランドで通用する高みに引き上げる相乗効果も生み出しています。
エントランスが一般道に面しており、外から食事に来る人も気軽に楽しめる洋食レストラン「レークハウス」も、地産地消のコンセプトは同様。ボートハウスをイメージし、中禅寺湖に面した大きな窓が開放的。中禅寺湖の写真や絵画、大谷石の薪暖炉が居心地の良い雰囲気を作り上げています。

Chapter 02

生産者との密な連携にこだわり、 地元の食や文化の質を引き上げる効果を

「ただ宿泊施設を提供するのではなく、生涯に残る体験と思い出を提供する場でありたいと思っています」と、総支配人の細谷真規氏。ここに来たら何ができるかとワクワクしながら足を運び、体験型の滞在を経験する。そのためにホテルでは、自然・文化・スピリチュアリティの3本柱からなる多彩なアクティビティを提案しています。特に、中禅寺の僧侶が指導する〈朝の座禅〉や、中禅寺での〈護摩祈祷〉は、本物かつここでしか体験できないため、日本人からも人気が高まっているそうです。地元の文化や伝統、自然、地元との密な連携に対するこだわりが生きています。
「インバウンドの課題としては、アクセス面があります。宇都宮まで距離がある、空港から陸路で、直接アクセスできないなど、解決すべきことは多々あります。ザ・リッツ・カールトン日光が話題になれば、関係各所に話しやすくなり、目を向けてもらえるようになります。日光をしっかりとした観光地にするためにも、早急に取り組むべき課題です。」(細谷氏)
早坂心吾総料理長は「食材は、醤油などの調味料も含め8割以上が地元産です。どの生産者さんの食材を使用しているのか、メニューにも積極的に記載しています。「ザ・リッツ・カールトン」というブランドを信頼して頂けるからこそ、ゲストにレストランへ足を運んでもらえ、生産者産さんたちもゲストの高い期待に応えようとしてくれます。そのように、日光や栃木の食や文化をもう1段階も2段階も引き上げるのが私たちの役目だと思います」と語ります。
地元生産者の元に自ら足を運び、その食材の質だけではなく人柄を自分の目で確かめる早坂総料理長。共に良いものを作り上げていく姿勢が、生産者の成長も引き上げる効果を生み出し、さらに日光や栃木の魅力を高めています。お重のような木箱に地元食材を30種類あまり使った料理が詰められた朝食は、まさにその集大成。細谷真規総支配人の「“ワオ・モーメント”を作りたかった」という言葉通り、蓋を開けた瞬間、誰もが歓声を上げてしまう美しさ、そして味わってまた歓声が上がる美味しさです。

Chapter 03

地産地消を象徴する、 いちご王国栃木の魅力が詰まった アフタヌーンティー

宿泊客以外の人にも大人気なのが、アフタヌーンティー。栃木県はいちごの生産量が53年間日本1で、年間を通していちごが食べられる、実はいちご王国なのです。その栃木県産いちごをふんだんに使った〈TOCHIGI Strawberry Experience〉は、これだけを食べるためだけにここに来る価値のあるアフタヌーンティー。「ザ・リッツ・カールトン日光」では、厳選された生産者の作る、とちおとめ、スカイベリー、とちあいか、ミルキーベリー4種類のいちごを使用しています。いちごとの統一感を出すために、セイボリーも赤のイメージで。前出のホテルオリジナル黒毛和牛のサンドイッチも登場します。ピンク色の綿飴を纏った3段重ねのケーキスタンドが登場する瞬間は、まさに“ワオ・モーメント”。極上な時間の始まりです。ちなみに、客室のウエルカム・アメニティーもいちごが登場することも。栃木県産イチゴの甘い香りに包まれる演出が素敵です。
ゲストのニーズを細かく拾い上げ現場でより良い形で実現していくのが、セールス&マーケティング部長の田中基規さん。「日本人ゲストの方は、ホテル自体や部屋を楽しむステイ型が多いので、そうした層にアクティビティを体験してもらえるような工夫をいろいろと考えています。たとえば、ハイキングというと腰がひけてしまうけれど、“朝のお散歩”という名前にしてみたら人気アクティビティになったという実例もあります」。アクティビティに限らず、とにかく本物しか提供しないという点が、開業時からずっと変わらないポリシーなのだと田中さんは言います。
中禅寺や二荒山神社などとの連携、地元の生産者やアーティストたちと細やかなコミュニケーションをとり、県庁を初めとして地元のステークホルダーと緊密に連携を取っていくザ・リッツ・カールトン日光。奥日光を世界に発信していくという、最初はインバウンドを意識してスタートした戦略が、今では日本人のリピーターや連泊客も呼び寄せる魅力になっていると語ります。

落ち着いたデザインの館内に、凛とした空気が流れる「ザ・リッツ・カールトン日光」。インターナショナルなラグジュアリーホテルでありながら、地元の食や文化を可能な限り取り入れて洗練された形で提供するというスタイルが、インバウンドのみならず日本人の心もしっかりと掴みました。「ザ・リッツ・カールトン」というブランドに対する信頼感とそれに応えようとする生産者やアーティストの意欲が、地元の食や文化のレベルとクオリティを押し上げ、地方活性化へと繋がっていきます。外資系ラグジュアリーホテルが地域を巻き込み、日本人が気付いていない日本の美しさを再発見する場を作り上げて成功したモデルケースといえます。 
文・斎藤理子

【ザ・リッツ・カールトン日光ホームページ: https://www.ritzcarlton.com/jp/hotels/japan/nikko】