2025年度 第6回 CJPF LAB「金融・地域創生×クールジャパン」

今年度6 回目となるCJPF LAB では、「金融・地域創生×クールジャパン」をテーマに、城北信用金庫 理事長 大前 孝太郎 氏、株式会社海外需要開拓支援機構 専務執行役員 川村 尚永 氏、SBI ネオメディアホールディングス 代表取締役副会長/ NEXYZ.Group 代表取締役社長兼グループ代表 近藤 太香巳 氏の3 名をゲストスピーカーとしてお迎えしました。モデレーターはクールジャパン官民連携プラットフォーム(CJPF)ディレクター 渡邉 賢一氏が務めました。クールジャパンに携わる金融関係者の視点と実践事例から示唆を得る場として、会場・オンライン合わせて多くの参加者が集い、活発な議論が交わされました。(開催日:2026年3 月3 日)

城北信用金庫 理事長 大前 孝太郎 氏

大前氏に「地域価値向上に資するコンテンツ開発への挑戦」についてお話しいただきました。大前氏はまず、金融機関の業務を「伝統的な金融業務」と「非金融業務」に分類したうえで、城北信用金庫がパブリックリレーションズ領域に注力している背景を説明しました。信用金庫は非営利の協同組織金融機関であるため、長期的な視点で投資判断ができるという特性を活かし、地域の価値向上に直結するコンテンツ開発に取り組んでいると述べました。

具体的な事例として、まず東京都北区を舞台とした日本酒ブランドの創出を紹介しました。北区は「日本酒の聖地」とも呼ばれる歴史を持ち、その象徴が国の重要文化財に指定されている旧国立醸造試験場(赤れんが酒造工場)です。かつて日清・日露戦争の戦費調達を目的とした酒税確保のため、全国から3,000人を超える杜氏がここに集まり、最新の日本酒製造技術を習得したという歴史的経緯があります。大前氏は観光協会会長として同施設の活用を推進し、インバウンド向けの施設見学と発酵食材を使ったフランス料理フルコースを組み合わせたツアー(一人約5 万円)を実施したところ即座に満席となり、ヘリテージツーリズムの可能性を強く実感したと語りました。

こうした経験をもとに、飛鳥山公園内の旧渋沢庭園で採取した「飛鳥山酵母」を活用した日本酒「飛栄(HIEI)」を2024 年に1本1 万円、2,024本限定で発売し、完売後に増産。ミシュランのレストランや帝国ホテルにも取り扱われる高付加価値ブランドとなりました。さらに酒粕を使ったカヌレやアイスクリームも地元企業と展開しています。続く白狐(BYAKKO)という貴醸酒(きじょうしゅ)は、記者会見後のクラウドファンディングで5、6時間で目標達成率200~300%を記録し、高い注目を集めました。

2 つ目の事例として、音楽・花火・ドローンを融合させた「北区花火会」を紹介しました。13 年前にゼロから始め、今では全国ランキング1 位を獲得するまでに成長。日本を代表する花火師チームと関西万博でも話題を呼んだドローンショーチーム「レッドクリフ」が組み、音楽の世界観に合わせた約1 時間の演出を半年かけて作り上げているといいます。

3 つ目として、全ての企画・収録・編集を金融機関の社員が担うインターネットラジオ局「しぶさわくんFM」を紹介。現在15 番組を展開し、就活の本音に迫る「謎就活」やアンゴラ村長(ニャンコスター)をパーソナリティとした番組など、幅広い層に届くコンテンツを意識していると述べました。

最後に大前氏は、金融機関のあり方について問題提起を行いました。4 年前の法改正によりサービス提供先の範囲が「取引先企業」から「その他事業者等」へと拡大されたことに触れ、金融機関はコンテンツ開発のプレーヤー、ディレクター、プロデューサーとして直接関与していく可能性があると訴えました。「間違えてもいい、フェールセーフでやる」という姿勢で数多くの挑戦を重ねてきた大前氏の言葉は、金融とクールジャパンの新たな接点を考えるうえで示唆に富む内容となりました。

株式会社海外需要開拓支援機構 専務執行役員 川村 尚永 氏

川村氏は「日本らしさを、もっと世界へ。」と題し、クールジャパン機構の概要と具体的な投資事例を紹介しました。クールジャパン機構(正式名称:株式会社海外需要開拓支援機構)は、我が国の生活文化の特色を生かした魅力ある商品・サービスの海外における需要と供給の拡大を通じて我が国経済の持続的な成長に資することを目的に、2013年11 月、法律に基づき設立された官民ファンドです。アニメや食などの日本コンテンツが自動車や半導体に匹敵する基幹産業になり得るという認識のもと、エクイティ出資や劣後債といったリスク性の高い資金を民間に先んじて供給し、民間投資の呼び水となる役割を担っていると説明しました。

投資の基準については、政策的意義・波及効果・収益性の三つを同時に満たすことが求められると説明。投資チケットサイズは原則10 億円程度であることから、スタートアップ向けには台湾ファンドと共同で設立した1~2 億円規模のサブファンドも活用していると述べました。このサブファンドの投資先の一つがドローンショーチーム「レッドクリフ」であり、大前氏の北区花火会とも縁がある存在として会場の注目を集めました。

具体的な投資事例として、アニメ制作会社がIP を自ら所有できるよう支援するつなぎ資金の提供(ジャパンコンテンツファクトリーを通じた取組)、ソニーとの連携による音楽ライブホール「Zepp」の海外展開支援、ロンドンへの日本食材展開、中国・オーストラリア・イギリスのワイン流通会社への出資を通じた日本酒の海外販路開拓、インドネシアの自動販売機メーカーへの出資による日系飲料・菓子の流通促進、インバウンド誘致を担う台湾系プラットフォームや英米豪の富裕層向け旅行会社への投資など、多岐にわたる取組を紹介しました。

川村氏は今後の期待分野として、インバウンドとエンタメ・コンテンツの二分野を挙げました。「聖地巡礼」に代表されるアニメと地域観光の連携、繰り返し訪問する「リピーター」の地方への誘導が大きなビジネス機会になると述べるとともに、金融機関のエクイティ投資が地方でまだまだ十分でないという課題も指摘。地域の事業家や金融機関双方の意識改革が必要だと訴えました。

SBI ネオメディアホールディングス 代表取締役副会長 / NEXYZ.Group 代表取締役社長兼グループ代表 近藤 太香巳 氏

近藤氏は「SBI グループ×クールジャパン 100 兆円市場の実現をオールジャパンで」と題し、SBI グループとしても初公開となる大きな構想を語りました。まずSBI グループの概要として、証券・銀行・保険を核とする国内最大級の金融コングロマリットであり、時価総額約4.9兆円、連結総資産37 兆円、上場会社18 社・関連会社820 社を擁すると紹介。近年はバイオやWeb3、メディア、エンタメ事業など金融の枠を超えた領域にも進出しており、1,000 億円規模のコンテンツファンドの運用も計画していると述べました。

事業の一環として傘下に置く「SBI MUSIC CIRCUS」の活動を紹介。音楽フェス、花火大会、食フェス、ドローンショーなど年間約30 回のイベントを開催し、多い時には20万人規模の来場者を集めていると説明しました。今後予定する主なイベントとして、北海道初上陸のオールナイト音楽フェス(9 月)、音楽ライブと花火が同期する「SBI舞花火」関東初開催(5 月30 日、2.5万人満員御礼)、ソフトバンクとの共同開催によるオールナイトドームフェス(6 月27 日、1.5万人)を発表しました。

続いて近藤氏は「本邦初公開」として、「Sphere東京プロジェクト」の構想を披露しました。The Sphere はラスベガスに第1 号が誕生した総工費3,500億円の球体型エンターテインメント施設で、360 度のLED スクリーンと世界最大規模の音響システムを備え、VR ゴーグル不要で2 万人が没入体験できるという次世代型施設です。1 日複数回の上映が可能で、コンサートとの組み合わせによる連続興行、外壁LED を活用した広告収入(24 時間で約7,000万円規模)など、高い収益性も見込めると説明しました。

候補地として東京・台場(お台場近郊エリア)を例示し、羽田空港へのアクセス、大型船着岸可能な港湾、運河を活かした観光ルートとの相乗効果などを挙げました。資金面ではSBI グループが専用ファンドを通じて2,000億円の拠出を想定しており、残りは企業連合で賄うことを視野に入れていると語りました。近藤氏は「国・都・民、オールジャパンで誘致を実現したい」と力強く訴え、会場を大きく沸かせました。

クロストーク・質疑応答

渡邉氏のファシリテートにより、3 名の登壇者によるクロストークが行われました。渡邉氏が「祭りや文化など、これまで金融資産として認識されてこなかったものが新たな価値の流通単位になっていく時代に、信用を発行する金融機関の役割は何か」と問いを投げかけると、「メディアと金融の融合は世界では当たり前。今は蓋然性よりワクワク感や期待にベットしていく時代だ」(近藤氏)、「金融機関がエンタメやメディアを引っ張る立場であってもいい」(大前氏)と、金融の新たな役割への期待が各登壇者から語られました。

質疑応答では会場・オンライン双方から活発な質問が寄せられました。Sphereへの投資可能性を問われた川村氏は「ファンドの存続期間の制約から回収期間が合わない可能性が高い」と率直に述べつつ、呼び水的な取組への貢献意欲を示しました。ドローンショーチーム「レッドクリフ」代表の佐々木広明氏が「Sphere と空のドローンを連動させたい。ぜひ仲間に入れてほしい」と熱く語ると、近藤氏が即座に「ぜひ連携しましょう」と応じ、登壇者・参加者のつながりが会場でリアルに広がる場面となりました。

クールジャパン産業における小口ファイナンスや人材育成の不足を指摘する声も上がりました。川村氏はサブファンドによる小口投資の取組を紹介し、近藤氏は「ステージとチャンスを与えて徹底的に期待することが育成の本質」と語りました。「日本のクールジャパンの本当のリソースは何かに熱狂する裾野の広さにある。そこへの投資を絶やしてはならない」と警鐘が鳴らされ、渡邉氏は人材育成を「普及・育成・強化」の3 段階で整理しながら議論を深めました。その後のネットワーキングでは登壇者・参加者の垣根を越えた対話が時間いっぱいまで続き、本イベントならではの熱気ある交流の場となりました。