名古屋にてCOP10が2010年に開催され、10年以上の月日が経っているが、その際SATOYAMAという概念が世界に紹介され、少しずつ世界に浸透してきたように感じられる。また気候変動の影響が世界各地で顕在化し、covid-19の台頭が人間社会に新たな方向性に向き合うことの必然性を突きつけているように感じている。
サーキュラーエコノミーには世界中にて多くの定義が存在するようだが、重要な概念として、使い捨て(直線型経済)、リユースにも留まらず、使用したモノやその中間過程で廃棄される材料が新たに形を変えてでも再生産され価値として販売されていく流れが構築されている状況を目指すことのようだ。
日本国内の地方部の多くには、永らく脈々と受け継がれてきた里山の叡智において、こういった視点がその地の人の営みの構成要素として、今なお多く存在する。
世界的にも認知が広がった日本酒・寿司の原料となる米に関しても、非常に良くできた循環が成立している。日本酒の製造過程で生じる酒粕が甘酒や奈良漬けなどの粕漬けの原料として利用されることは周知の事実であるかと思うが、大吟醸などの精米歩合が高い日本酒を作る際には、多くの米粉が生じてしまう。これら米粉の行き先として煎餅や団子の原料として活用されている。また、同様に米ぬかも生じるが、こちらは私が住む飛騨地方においては、かつてから木造家屋の床や柱を磨くワックスのような用途で利用されている。更に秀逸なのは、家の手入れが終わったあと、その米ぬかを目の前の畑に撒くことで、土に還り、作物の肥料として再利用される。
こういった事例は里山フィールドを注視してみると枚挙に暇がなく、世界遺産白川郷に代表される茅葺き集落の茅の活用方法にもみてとれる。茅場から収穫した茅を干す過程で雪囲いとして活用し、乾燥された茅は屋根材になる。その後、雨風で傷んだ茅は屋根から降ろし、家畜の餌に。そして畑に家畜の体内で消化された茅は畑の土に戻るという非常に高度なシステムとも言える。
過去にMOTTAINAIという単語が注目を浴びたが、こういったシステムをライフスタイルの中に創り上げてきた源泉は、まぎれもなく日本人の精神性を根底があるように感じられ、これからの社会形成において手がかりの宝庫と言えるようと考えている。
最後に、サーキュラーエコノミーの視点で里山エリアから学ぶ際に、別の視点があると考えられる。そのポイントとは、貨幣を介さない物々交換の概念である。近隣住民との会話の中で、「ワシはこの車庫を酒二升で買ったんや!」と聞いてから、月日は10年も経たない。自らの畑で収穫した野菜をおすそ分けする、収穫された野菜が集う家庭ではそれらを漬物に加工して、野菜を受け取った家庭をはじめ隣人に配り歩く。日本酒や農作物など、五穀豊穣などを願う神様とムラの民との循環の要素とも言える。もしかしたら先人は、社会形成において「繋がり」の重要性を既に知っていたのかもしれない。そのあと我々は、利便性を求め市場経済、貨幣経済の利点を享受してきたが、これらのシステムも完璧ではなかった。これからの新たな豊かな社会を形成するにあたり、里山・里海に学ぶ姿勢に基づくアクションはいち早く着手すべきであろう。なぜなら、人口減少・高齢化が進む里山の寿命はもうそれほど長くはないとも言えるからである。
投稿タグ: 利活用
「VISON」に見る、テロワール×SBNRによる観光立国の方向性
ワインの世界でよく耳にするテロワール(terroir)は、フランス語で大地を意味する「TERRE(テール)」が語源で、食品等の生育地の地理、地勢、気候による特徴=土地に根ざすものという意味である。
米国と日本における最大級のデジタルメディアであるバズフィード上では、様々な分野の記事を掲載しているが、コロナ禍で自由に帰省や旅行ができない中、「地域に根ざす食」関連のニュースへの関心が高まっており、21年度は、『#地元のおいしいやつ』 をつけた各地のグルメ記事を計34本配信、SNSで2万5千以上の拡散、125万以上のPVを獲得した。これら現在の読者の関心をポストコロナの観光に如何に活かすか、を考えてみたい。
2021年7月に三重県に誕生した日本最大級の商業リゾート「VISON」のコンセプトは『地域とともに』。地元熊野灘でとれた魚介類や採れたての野菜が並ぶマルシェやレストラン、ホテルを中心に「癒・食・知」を軸とし、伝統と革新を融合させる新しい地域経済の活性化を目的としている。同時に「VISON」は、人口減少と高齢化、農業や林業の担い手不足など、日本の多くの地方の町と同じような地域課題の解決を目指す役割を担っているが、そのコアコンセプトがテロワール=地産地消だ。
テロワールを地域外の人たちに提供し、顧客単価の高い地元外の来訪者を呼び込むことで外貨を獲得する。それにより高い賃金を維持し良質な雇用を生み出す。テロワール概念の実践、つまり地域のもつ食材、文化の良さや世界観を料理を通じて地域外来訪者に伝えることで、地域の社会課題を解決していく。
「VISON」は、1000人規模の新規雇用を産み地域の課題を解決するために、同県の代表的な観光地である伊勢神宮と同等の規模である年間800万人程度の集客を目指している。
一方、いま世界的には、マインドフルネスや瞑想・ヨガブームが起きており、SBNR= Spiritual but not religious、つまり宗教的ではないがスピリチュアル的なことへの関心が高まっている。米国ピュー・リサーチ・センターのデータによれば、米国の成人の約4分の1(27%)が、自分たちをSBNRと分類している。コロナが長引くことにより、さらにこの傾向は強まっていると推測され、SBNRの視点は今後のわれわれの生活になくてはならないものになるだろう。
日本全国で、この「VISON」×伊勢神宮のような、テロワール×SBNRという新たなフレームワークによるデスティネーション開発を行うことは、ポストコロナの時代において、SDGsと経済成長を両立する骨太の観光施策となりうる。
この地域食文化×スピリチュアル的スポットという組み合わせは、スペインの、サン・セバスチャンとサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路と同様だ。日本には、四国の遍路道や永平寺、平泉中尊寺ほか、地域の食文化×スピリチュアル的なデスティネーションには事欠かないため、極めて有効な観光立国施策となろう。
ただし、これらの一定の教養が必要となる情報を発信する際には、年齢や性別などの属性だけを元にYouTubeやインスタグラム等のプラットフォームでターゲティング発信をすることでは、届けたい人にきちんと情報が届けられない。そもそも、地産地消、地域の社会課題解決などの考え方や概念に慣れ親しんで居ない人には用語からして馴染みがないため、信頼性の高いハイコンテキストなメディア上での情報発信が必要不可欠だ。
テロワールやスピリチュアル的な文化など、言語化しにくい日本固有の観光資源ソフトの魅力・強みの可視化を行い、日本国内や世界各国の読者に、①気づきを与えての興味喚起②理解促進③検討の後押しを図り、「メディアを通じての社会変革」を実現してゆく事こそ、これからのグローバルメディアの役割だと考えている。