「評価資本主義(エバリュエーション・キャピタリズム)」という考え方がある。世界の人口居住地域の常時接続率は90%を超え、人々はSNSをはじめオンラインメディアで繋がりあいデジタル・コネクトされた現代、「シェア」、「いいね」、「コメント」などの行為を通じて、「評価」をキャピタルとした社会が広がってきている。人々はこれまで貨幣資本、労働資本、社会資本、産業資本など様々なキャピタルをモノサシとしながら経済活動や生活文化、社会活動を営んできたが、現代社会においては、世界の人々が何を評価し、何に関心があり、どんな価値軸のシフトをしてきたのかという「評価資本」のポートフォリオを可視化し、分析することは社会の現状認識や未来予測として有効性がある。特にこのCOVIDシンドロームの時代に人々の価値観は著しく変化し、社会システムや経済状況、政策なども新しい枠組み化が進展してきた中、「鳥の目(俯瞰思考で生態系を分析する)」、「虫の目(観察思考で仕組みを分析する)」、「魚の目(比較思考で流れや傾向を分析する)」という三つの科学的視力を強化することで次の時代のクールジャパン戦略のフレームワークづくりに活用をしたいと考えている。
今回、内閣府 知財事務局とクールジャパン官民連携プラットフォーム(CJPF)では、世界を対象としたソーシャル・リスニング調査を行い、代表的な結果をインフォグラフィックスを通じて一般公開することとした。様々な分析結果が導き出された中、端的にそれを表現するならば現代は「Sustainability(サステナビリティー)」、「Social(ソーシャル)」、「Circular Economy(サーキュラーエコノミー)」、「Community(コミュニティー)」などのSC時代化が進展してきている。まさに、グリーン・クールジャパン元年ともいえる大きな価値転換が求められている中、CJPFでは「食・食文化」を起点とした戦略全体の見直しを推進している。具体的には「発見」、「共感」、「共創」というステップを掲げ、日本国に存在する有形無形のCJ資源を活用し、世界の国や地域と国内の人々が垣根を超えて次の時代を共に開拓してゆくような伴走型のフレーム作りをしてゆきたいと考えている。
”日本”という文化価値について世界視点や未来型思考で再編集し、地球サイズで社会や経済をアップサイクルをしてゆく活動がこれからの時代の新クールジャパン戦略であると信じている。そうした第一歩として、オウンドメディア「cjpf.jp」の開設を通じて、世界におけるジャパナイズド現象(Japanized Effect)の分析や、先進事例のモデルパターン検証やコンテンツ化を推進し、n数のこたえを導き出すきっかけとなりたいと考えている。
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世界が期待する日本のフィッシュ・ガストロノミー
海外からの友人やお客様が来日されるたび、必ずと言っていいほどリクエストされるのは寿司です。
ご存知の通り、近年世界的に寿司や日本食は人気になっており、各国で急速な店舗展開がされていますが、やはり日本で食べるそれは格別に感じます。
地球の表面の約70%は海であり、古代より人々は漁業を営み、それを食すことで人類の貴重なタンパク源としていました。しかしその中でも、日本の魚文化は特別な存在であると言えます。
日本は島国であり、面積から見ると小さい国ながら世界のトップ10に入る海岸の長さを持っています。釣りや海産物の文化にも長い歴史があり、約7500年以上前、縄文時代にも定置網を利用しており、魚は生きていく上で大切な食べ物とされていました。
現在もなお、魚は日本の貴重なタンパク源であり、東京にある豊洲市場は世界一の規模を誇る卸売り市場として知られています。毎日約1,400トンの魚が世界から集まり、また世界各国に輸出されています。世界中からフィッシュ•ガストロノミーを求めて来日する人は後を絶ちません。なぜなら日本には、古くから連綿と続いてきた魚の食文化があるからです。生産、加工、流通、消費までの過程は世界のどこよりも優れており、結果的に日本で消費される魚料理は鮮度が良く、美味しいのです。
私の考える『フィッシュ•ガストロノミー』とは、これまで日本が培ってきた魚文化を背景に出来るものです。鮮度が命と言いますが、日本の魚は最高の状態でシェフの手元に届きます。最高のパーフォースが発揮できるのも、最高の食材がシェフの手元に最もいい状態で届くからだと言っても過言ではありません。文化、歴史、技術、全ての調和によって世界が熱望するJapanese Seafood Gastronomyが出来上がるのです。
流通技術、加工技術、料理技術の高さにも関わらず、国内では過疎化や若い世代の魚離れにより、年々水産物の消費が減少しています。一方、世界的な人口増加と食糧危機の予測により、これからの持続可能なタンパク源の確保は緊急の課題です。世界的にはヘルシー思考や日本食の流行により、魚の需要は増加傾向にあります。いよいよ日本の鮮度の良い魚と同様、フィッシュ•ガストロノミーは多くの人に求められており、世界の桧舞台に立つ時期が近付いています。しかしながら、日本が世界へ品質の高い魚と料理のノウハウを供給する土壌はあるでしょうか?デジタル•トランスフォーメーションにより生産現場の効率を上げたり、輸出専用の漁場を作るなどして初めて、日本政府の輸出目的を達成できると考えております。
日本にある素晴らしい言葉、『温故知新』にあるように、新しい創造には過去から学ぶことが必要と考えます。これまでに培った日本の高度な水産技術を基礎にして、それらをテクノロジー化することにより、日本の水産技術は更なる進化を遂げることとなるでしょう。今後さらに高まるであろうSDGsにも配慮し、最先端のテクノロジーやAIを駆使して、持続可能な魚の供給が、日本のみならず世界にも求められています。
地球社会の未来を開く、おいしい経済学〜わたしたちは、世界一「おいしい国」に生きている〜
わたしたちは「世界一おいしい国」に生きている。
世界各国からコロナ禍が収束した後に行きたい国ランキングで、日本は、アジア居住者からは1位、欧米居住者からは2位と、軒並みトップクラスです。その目的の1位は「食」。海外から来日する観光客の多くが「おいしいものを食べる」ことが目的であることはさることながら、日本は『ミシュランガイド』も星をもっとも多く保有する国で、特に東京は星の総数でも、三つ星の数でも、ミシュランの本家であるパリを大きく上回っています。日本食の店が評価されるのはもちろんのこと、フレンチやイタリアンなど外国料理で多くの日本人シェフが腕を振るい、星を獲得しているのも特色です。ミシュランに限らず『パスタ・ワールド・チャンピオンシップ』や『世界ピッツァ選手権』など、国際的な料理のコンペティションで世界一位に輝いた日本人は枚挙にいとまがありません。日本は、世界各国の味をさらにおいしく進化させる国と言えるのです。
また、日本は海山の幸が豊富なうえ、四季折々の旬の食材もあります。優れたサプライチェーンもあるため、それらをフレッシュな状態で食べることも容易ですし、保存食から発展した発酵技術も旨味に広がりをもたらしています。他にも、伝統料理や郷土食など地域によって異なる食文化の多様性に、調味料や加工食品をつくる工場の「調味の技術」の高さなど、日本食の良い点は数多あるのです。これらの、日本がもともと持つ「おいしい」技術に加え、ヘルシーで、かつ、欧米的なの食事よりも環境に対する負担が低いという点も、世界の国々からリスペクトを集めています。2005年当時、海外の日本食レストランの数は約2.5万軒でしたが、2010年には5万軒となり、2020年には15万軒まで膨らんでいます。いかにして、世界中からリスペクトされるこの食文化を「数百年継続する日本の優位性」として残し、発展させていくべきかを国をあげて真剣に取り組まなければならないのではないでしょうか。
世界人口が爆発的に増えると予想されるこれからの未来を考えると、「食」は世界的な成長産業といえます。その中で、高い技術や伝統を持った日本の食文化は強力な武器となるのです。しかし、現状では「食」という「資産」がもたらす可能性に日本に暮らす人々が気づいておらず、自然環境や農業・漁業に関する知見や調味技術など、「食」にまつわる資源の喪失・流入を招いているのも現実です。過去の「失われた30年」のようにこのままビジョン無き30年を過ごしてしまうと、「食」に関する多くのアセットは、おそらく、この数年以内に継承されないまま静かに消えてゆく「サイレント・デス」を起こすでしょう。
では、いかに日本の「食」という資産を活用するのか。
それを考える上で重要なポイントはビジョンの共有です。わたしはこれを日本の「おいしい未来戦略」と名付けたいと思います。「おいしい経済大国」への道を明示することが、脱成長時代と言われる日本における、未来への成長戦略なのです。
爆発する世界人口とは対照的に、少子高齢化による未曾有の人口減少時代を迎える未来の日本において、もともとある資産を活用して最もポジティブに輝かせる戦略は、「日本の食」という優れた資産をベースにこれまで培ってきた伝統と技術を新しい発想で組み合わせて「おいしい経済圏」をつくることだ、と、わたしは考えます。わたしたちの生きる現代の日本社会は、大量生産・大量消費の時代に作られた人口が増えることが前提のシステムで動いています。人口が減るのにその仕組みを続けようとするならば、無理が生じるのは当然です。それならば、発想を転換して「人が少なくても幸せな暮らしはどういう姿か?」を考えることが必要になります。
また、世界各国が日本の「食」に学んでいることも事実です。アメリカの食のハーバードと言われる料理大学「CIA(The Culinary Institute of America)」もそのひとつ。日本食がおいしくてサスティナブル、そして、健康的であることにも起因します。これは日本の強みです。心と身体が健やかである暮らしは、純粋に楽しいものです。自然を感じるロケーションの中、誰かと一緒にご飯を食べて、それがおいしく身体にいいものだとしたら、それはもはやエンタテインメント同様の楽しさと満足感を提供できるものになるでしょう。
オランダの『リージェン・ビレッジ』は世界初の地産地消コミュニティとして富裕層の獲得に成功し、エストニア『イーレジデンシー』は透明性のあるコミュニティで、先進的な企業に支持されました。では日本では?と考えた時、「健康的でおいしい」という強みを真剣に訴求することに大きな可能性があります。「健康でおいしい」体験ができ、さらにエビデンスとしての効果が明らかであれば、やってくる人は必ずいるでしょう。また、デスティネーションを求める人たちにとって、日本の治安の良さや清潔さ、口に入れるものへの安心・安全は明らかな優位性です。観光に限らず、「どこのコミュニティで生きようか」と考えたとき、選択肢に入りやすい要素を持っている、とも言えるでしょう。そういった人々をオランダやエストニアのように生態系に取り込んでいけば、日本にもこれまでにない「おいしい経済圏」が誕生するのです。
「日本料理や日本の『食』はすごい。ナンバーワンだ」と偉ぶることは簡単です。しかし、その源流には多くのアジアの国々からいただいた文化があるのです。明治期の思想家である岡倉天心は、かつてニューヨークで発刊した著書『THW BOOK OF TEA』のなかで、「自然を凌駕していく西洋的な文明は、自然と一体となり共存していく東洋的文化から学ぶべきだ」と主張しました。自然と共生し調和する暮らし方と、健康でおいしい食の喜びを「日本の専売特許」とするのではなく、「アジアからいただいたもの」という意識を重んじながら世界へと発信する。そのうえで、日本の後に少子高齢化を迎える東アジアの国々の課題解決にも貢献していくことができれば、数々の文化を黒潮によっていただいてきた日本にしかできない貢献であり、リーダーシップにも寄与するのではないでしょうか。
最後に、わたしが考える「日本の美味しい経済を実現する10の指針」を記します。これは日本の「食」に対する指針ですが、同時に国内の経済対策であり、国際社会に対する日本らしい貢献を生み出すものです。この10の指針を実践することで日本のブランド力も向上させ、食を通じたグローバルでポジティブな循環を生み出すことを目指しています。
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1.ジオガストロノミー
高低差の激しい山々、広い海域と力強い海流、そして天からのあらゆる恵みに富んだ多種多様な地域性が、強い生命力を有する水の力・土の力を生み出した。そんな大地と水の力に満ちた食の純粋さ、素材の強さ、おいしさを地域特性ごとに表現する。
2.季節性
千年以上にわたって四季折々の自然と共生し、向き合い続けて生きたその歴史に想いを馳せ、春が来ることへの喜びや、秋の収穫への感謝など、二十四節気・七十二候にも及ぶアジア独自の季節の移ろいに対してのセンスやリズムを、未来に向けてもう一度研ぎ澄ます。
3.里山・里海生活文化
世界に誇る里海の生態系をつくってきた先人への感謝を国民全員で共有し、後世に引き継ぐ活動をリスペクトする。それを日本だけに留まらない命の循環・食の循環の普遍的モデルとして位置づけ、世界に拡げることにも尽力する。
4.健康に貢献する食文化の継承
発酵技術などに代表されるような、日本だけでなくアジア全体に残る食生活文化に、古くから宿っている健康で幸せに生きるための叡智をレシピとして再編集し、次世代の子どもたちと共に継承し、分かち合う研究・実践の場を拡げ、学びの機会を拡げる。
5.文化多様性への寛容性
八百万の神を大事にするように自然と共生すると共に、あらゆる外国の文化を生活に取り入れ、長い年月をかけて成熟させてきた。そんな多様で寛容な好奇心を常に持ち、世界の食文化を「おいしい」でつなぐガストロのミーハブとしての役割を果たす。
6.グローバルセンス
世界の人々の食の未来課題、価値観や嗜好の変化などに常に意識を持ち、日本の各地域における食の特性が世界といかに同期しながら共創し、貢献・発展できるかに想いを馳せ、その永続的つながりを構築する努力を惜しまない。
7.SDGs
地球環境負荷が低く、ヘルシーでもある日本の食文化は、サスティナブルな社会実現へのソリューションになり得るという自覚を持つ一方、食品ロスなどの自国特有の課題に正面から向き合う覚悟を持ち、完全循環型社会の実現を目指す。
8.ブランドとデザイン
全ての食関連分野にITとデザインを活用することで、コミュニケーション&ブランド戦略を強化する。日本の食関連の様々なストーリーを世界に発信することにより、結果的に食だけに留まらない日本全体のブランディングに寄与する。
9.テクノロジーの活用
日本独自の「おいしい」の担い手である匠の技とAIやフードテックなどの先端テクノロジーを融合することで、食に携わる人々全ての叡智を糾合し、知財化を目指し、世界と交流する「おいしいグローバルコミュニティ」づくりを推進する。
10.食産業のコミュニティ化
飲食店や農業・漁業、食品、小売業などの食関連産業に留まらず、エンターテインメント、家電やモビリティ産業などに至るまで、あらゆる産業や学術研究者や政治家などのマルチステークホルダーと連携し、「世界一おいしい社会の実現」こそが日本の成長戦略の要だと位置づける。
食の楽しさ、つながる楽しさ、生きる楽しさ、それらを大切に育てていくこと。それがこれからの、日本の成長戦略なのです。
藍と共に暮らす日常。
徳島が描く“ジャパンブルー”の
新たなストーリー。
時代の終焉、新時代の幕開けと「こころ」 <21世紀の意識革命 :「SBNR」とは>
【「神の死」以後のパラダイム転換】
研究者によってSBNRと称される「Spiritual but not religious : 特定の宗教への信仰心は持たないが、神秘的なものに惹かれる人々」の数は年々増える一方である。又、SBNRとは一種のマニフェストであり、そこに横たわる価値観、スピリチュアリティへの改めた関心などは、我らのポストモダン社会に新しい時代の到来を予告するパラダイムチェンジとも受け取れるであろう。
アメリカのような超大国において、成人で5人に1人はSBNRであると言われている。また、ミレニアル世代の間では、この傾向がより顕著であることも今日知られている。では、なぜこれ程にまでSBNRが大きな影響力を有するに至ったのか?
【時代を映し出す鏡としての存在】
一つ目、SBNRという現象は現代社会が生み出した産物との視点があげられる。SBNR達は確かな個人主義者であり、現世代とともに政治的・宗教的権力への嫌悪感も抱いている。そこから、自己判断をより重んじる彼らは、自己責任や自己実現への肯定的な感情を表し、人生のゴールや神秘といった命題を正面から見つめ直すスタンスを示している。つまり、従来の「師」、「指導者」、「倫理」などを頼らず、自分自身は「自分のグル」でいようとの大きな特徴を持つ。
二つ目、SBNRの「エートス」(=生活態度、心的態度、倫理的態度)またはミレニアル世代やZ世代が寄せる関心事との間、多数の相関性が見えてくるものの(エコロジーや環境問題への関心・関与、社会的寛容、ジェンダー許容、信条、信念の自由等々)、物質主義的な価値観にとらわれた現代社会の無神論者達との線引きは、もはや自明であろう。詳しく言うと、「自身の心の内側(主体)」、「我々を取り囲む自然(客体)」、そして、「自分と外部世界とのかかわり(主客)」それぞれの中に「神聖な存在」を追い求めるSBNR達の姿が映し出すもの、それこそは、人間本来の姿への回帰を希求する、我々の内に宿る主体的、感情的、非功利主義的な「こころ」の発現であろう。
【人類の自己実現への跳躍】
学術的な視点に依拠し、SBNRが人類の自己実現化を促す運動として考えられ、つまりマズローの欲求階層説の最終的かつ最大限の段階に至る志でもあろう。
物質主義的な社会の在り方が、マズローのいうところの第一、第二段階 ― 生理学的な充足や、安全と安定といった「基本的欲求」の補完 ― にあるのだとして、現在社会の「デジタル化」(DX)はマズローの欲求階層説の第三階、第四階 ― 所属と愛情の欲求、または承認の欲求 ―に至るであろう。特にソーシャルメディアに全幅の熱心と信頼を置くミレニアル世代やZ世代から、「多元多様な他集団への帰属」「他者からの承認」「自身、自尊心」など示している欲求はそれを明らかに証明するであろう。
それを対象に、-自己実現-という最終段階に向かうSBNR達は人類の先駆者として、現代社会が過剰的な合理性により見失った非物質的な価値、とりわけ「美」「創造性」「共感」「スピリチュアリティ」などを取り戻すことを目指し、現代のSDGsさえが目指す目標以上、有義のある社会パラダイムチェンジに導こうと見せている行動である。
【SBNRと経済活動】
我々が現代社会において何が出来るのか。それはSBNRの「エートス」に依拠し、改めて考え直してみれば、その無限の可能性に誰しもが驚くことであろう。サービス産業全般、CX (カスタマーエクスペリエンス)、コミュニティデザイン、地方活性化、あらゆる領域に及び、SBNRの考え方は応用可能で、とりわけ観光業はSBNRの精神が有効に機能する最適の分野と考えられる。
事実、地球上で最も裕福とされる人々が旅に追い求めるもの、それは自らが旅を通じて新たな世界へ足を踏み入れる契機、人生の新たなページの模索である(世界最上位の旅行コンソーシアムであるTraveller Madeが2021年11月に行ったリブランディングに際し、セレンディピアンという名のもと提出したマニフェストの中に、「トランスフォーマティブ・トラベル」への言及がみられる事に留意されたい)。
【日本の風土との親和性】
果たして、壮大なる自然の風景を背後に据え、そこに精神世界が広がる伝統文化を育んできた日本こそは、SBNRの考え方に共鳴する旅人にとって、最良・最高の環境ではないだろうか。禅思想や高野山に代表されるような成功事例を引用せずとも、日本の国家戦略として継続性のある経済発展を目指す上でも、又、観光業での分野において新時代到来を告げるパイオニアとして世界をけん引していく役を果たすという意味でも、インバウンド市場におけるSBNRの活用による余得は枚挙に暇がない。
また、日本人独特の宗教観と密接に繋がっている神道行事や、祭の重要性についての言及を避ける事も出来ないだろう。アニミズム的儀礼や、言語化された宗教上のドグマに還元されることのない、大いなる自然との対話や融合という経験などを通じ、人々の心の中に本能的、直観的な形相として宿るスピリチュアリティこそ、日本に古くから存在するSBNR的な感性の原始の姿に他ならない。
匠のこころ、自然の素材が持つ可能性を極限にまで引き出す技、ここにも同様の精神の現れを認める事が出来る。侘び寂の精神であれ、不完全なものや空の中に審美性を見出し、こうしてモノとの関係においても意味の充足を求めていく姿勢に、現代社会においても脈々と継承されてきた日本の民族学的固有性を認める事が出来るだろう。
その他、西洋・東洋においても、人間的・現世的・即物的な欲望の一つとして、美食・ガストロノミーがあげられる。ところが、日本という地平、そしてSBNRのエートスという土壌、この両者が結びついたときに、食という主題が奇跡的な変容を遂げるのである。心と体の健康、精神的充足、美の形象に結実する神聖さや無限というテーマ。現代における「神饌」というタキシノミアを織りなし、食に携わるもの(調理や給仕をする者)、それを口にするもの(客人、又は養われる側のか弱き存在)、命を奪う存在や生にかかわるもの一切(生産者、漁師から消費者まで)、といった存在一切を包摂するのである。
一方、日本文化が海外に普及しつつあるものの、その意義と真髄を真に伝えるナラティヴ(神話・物語)がまだ最適に成り立っていないため、日本文化の本来の潜在影響力を最大限に引き出せない状態に留まっている。そこは、SBNRのエートスが改める価値観やナラティヴこそは解決の鍵となりえて、日本全国の地方活性への有義のある新風をもたらすポテンシャルは無限に近い。
【結び】
海外においてSBNRの勢いが増すにつれ、物質主義的充足に主眼を置いた日本のマス市場向けの観光立国戦略の限界、破綻も現実のものに近づいている。他方、日本国みずからがSBNR的エートスを我が物とする限りにおいて、世界に比類のないデスティネーションおよび社会として生まれ変わる、その新たな扉もここに開かれているのである。
世界に進展するプラントベース・ガストロノミーの行方=私たちが考える2050年の地球とは=
現在、2020年に入りコロナウイルスの影響で私たちの生活習慣は劇的に変化し、新たなフェーズに入った事を社会全体が体感しています。
それと重なり合うように、私たちの生存する地球においても温暖化という地球規模の社会問題が日常生活の中で感じられはじめています。
例えば、近年では当たり前となったゲリラ豪雨を始め、毎年のニュースで流れる過去最大規模の台風、漁獲量の減少と旬の変化、安定収穫できた野菜が不作で終わるなど、著しい変化が起こるようになりました。
それは、私たちの文明の発展とともに 生活が豊かになる中、知らず知らずのうちに相反して地球に対して大きなダメージを与えていたのかもしれません。
合わせて、これから世界的な人口爆発が予期される中、このままのライフスタイルで生活を続けていくと地球が二つ必要となる事も予想されています。
そのような状況下の中で、各国が様々なアイデアから環境問題の改善に向けこの美しい地球を再生させる取り組みを行なっています。
私は考えました。 ガストロノミーにおいて全世界で共通する”食べる”という行為は人類における生命維持の中で必須となる行為でありますが、 環境改善におけるソリューションでもある事と感じ、それは、日常の中で如何に環境に優しいライフスタイルを食から育んでいく事が重要であるかと私は悟りました。そのソリューションキーワードの一つとして”プラントベース”志向の食のライフスタイルが地球環境において効果的なパフォーマンスへと導くはずです。
この”プラントベース”は、私達 日本人の食のライフスタイルに古来から密接しています。
例えば、私たち日本人のひとつの食文化である精進料理の菜食の世界です。 13世紀に広がった日本の菜食の文化ですが当時は物流が発展していない中での食生活ということで 地元の季節の食材を自分の手で調達し自然と調和し自然の恩義に対する感謝の気持ちから、 必要最低限の食材を調達し自給自足の持続可能なライフスタイルを送っていました。
そのはるか昔のイデオロギーから現代社会の飽食について見つめ直す事も出来るでしょう。
私は「健康と共に地球環境にもポジティブな効果が生まれるライフスタイル」を日常の食卓やレストランの中で美味しさを感じながらストレスなく環境問題改善に繋がる社会貢献ができるのではないかと悟りその可能性に対して行動を起こしました。例えば、 全国で1000ヶ所で日常食からヴィーガン食を取り入れ社会貢献を行う”1000 Vegan Project” を社会連携しながら実装する事を起案し、北は北海道稚内、南は沖縄県まで1年間で10万食以上の ヴィーガン食を各企業と連携し人と地球に優しい食の社会貢献アクションを達成致しました。
また、食のクリエイターと位置づけされるレストランシェフとのヴィーガンメニューのレストランイベントを通じて、通常メニューの中でプラントベースへの推進を図る活動を行い、食品会社との協力からプラントベースにシフトする商品開発など継続的に行っております。
私は思います。フードソリューションとは 、私たちのささやかな食の意識を変えることができ、より大きな力を生み出すことを実感しており、 この青い美しい地球を持続可能に導く事が出来る可能性を信じています。そこには、国籍・肌の色・宗教的な壁はなく、生存の中において必須である食から意識を変え、プラントベースガストロノミーの世界から”口福の社会”へと導く事が実現できる事を。その貢献精神のマインドから地球規模での活動を行うことにより、美しい 地球再生への実現ができれば、どれほど平和的で素晴らしい事であろうと。
その中で私はソリューションの鍵となる3つのアイディアを定義し、”2050年に向けて食を再構築する 未来のレシピ”と命名致しました。
このレシピアイディアは2050年の持続可能な食の未来を創る地球と人類に捧げる地球料理(ジオ・ガストロノミー)のレシピの定義とし、そのレシピが2022年2月19日に宇宙センターから発信され、その願いを宇宙宣言と致しました。
1、ローカルとテクノロジー
各土地の山・海・陸の生命体を、古来から食の歴史を持つローカルガストロノミ―とテクノロジーを合わせ、宇宙的視野からのダイナミックな地球の分析から、地産特産物のゲノムのミクロ解析まで、多角的な分析から未来に繋がる人と地球に優しい循環型のレシピを創る。
2、先人の知恵を未来へ
人類誕生から現代まで続く、先人の知恵からなる循環型の社会から学ぶ・伝統郷土料理を見直す。また発酵・熟成文化の中にある、生命を長期保存させる“天然微生物”の可能性に着目する。
3、フードイノベーション
人口爆発における食料危機と共に、世界生産された食料の1/3が廃棄されるフードロスを価値に変える新しいフードイノベーション・レシピを考案する。
その定義が世界中の人類との共存共鳴のキーワードとなり循環型社会(サーキュラーエコノミー)が地球全体に広がる事で、2050年の地球がより美しい形で帰ってくることをイメージしています。
2050年につながる次世代の明るい社会に向けて 、食から育む プラントベースガストロノミーが地球全体でムーブメントが起るのは、そう遠くはないと感じています。
日常の食から考える、ささやかな食の社会貢献が私達の地球を明るい未来に繋がる事を知って頂き、持続可能な社会を地球全体で達成する事を私は願い地球全体の仲間と共に活動を続けて参ります。
先取の精神で、薩摩焼酎を世界へ。―薩摩
蔵元の情熱と戦略が、球磨焼酎の未来を築く。 ―人吉球磨
世界で進展するフードデザイン思考
オランダの夕飯の食卓に並ぶのは、ベーシックかつローカルな食材と、エキゾチックな香辛料を使った異国料理がまぜこぜになった献立です。これらの香辛料は、16世紀にオランダに入ってきて以来、オランダの食文化の一部となりました。また、地理的条件や貿易立国としての立場上、世界中の異なる文化圏から多くの人を迎え入れてきたオランダには、同時に新たな食文化がもたらされました。オランダ人はもともと、食に対して非常に実利主義的な姿勢をとってきました。食べ物には栄養が第一で、その形や見栄えにはあまりこだわってこなかったのです。オランダの農業は、単位面積当たりの収穫量が欧州で最も高く効率的で、昔ながらの手作業の農作と科学の融合により、質の高い農産物を生産しています。また、国土の4分の1が海面下にあり、経済的・文化的・政治的に要となる地域が堤防によって守られていることから、オランダ人は地球温暖化の影響にとても敏感です。
オランダの食文化のこれらの特徴が、なんでも自由に議論でき、新しい試みにおいても決して伝統にとらわれることなく、そして目新しい料理よりも、現代人の食生活が及ぼす影響のような、社会全体の課題が重視される環境を生み出しました。
こうした土壌があるなかで、アイントホーフェン・デザインアカデミーにてオランダのフードデザインが誕生しました。この分野の先駆者となったのが、マライエ・フォーゲルサングという女性デザイナーです。社会的な課題にもふれながら、食体験をデザインし、食を通じて新たな感覚を創り出すことに焦点を置くマライエは、自らをフードデザイナーではなく「イーティングデザイナー(eating designer)」 と呼びます。マライエが2014年にアイントホーフェン・デザインアカデミーで立ち上げた「フード・ノン・フード学科」は、8年間にわたって食分野のデザイナーを育成しました。「2050年に私たちは何を食べているか?」「私たちの食文化が地球に及ぼす影響は何か?それをどう変えられるか?」など、デザイナーたちは今、食に関するもっと大きな課題を見据えています。実験や新たな挑戦に対する熱意は、食や自然、バイオテクノロジー、科学を専門とする、アムステルダムの芸術センターであるMediamatic(メディアマティック)の活動、およびNext Nature Networkの食関連のプロジェクトからも感じとることができます。
さらに、先進国であるオランダは、地方の過疎化や高齢化社会、都市圏一極集中という、日本と同じ課題に直面しています。住む場所として、または、少なくとも観光地としての地方の魅力を高めるには、何が必要か?その答えのひとつとなるのが、美食です。地場産の食材や改めて注目されている伝統野菜、サステナブルなメニュー、世界一流の料理人による魅力的なプレゼンテーション(都市別のミシュラン獲得店数ランキングで、オランダは世界8位)を取り入れることで、人々を引きつけることができます。
日本が築いた世界有数の豊かな食文化は、オランダには存在しません。しかし、食に対する現実的な姿勢、食が及ぼす社会的影響に対する意識の高さ、そして欧州におけるポジションを考えると、オランダは食分野の中でも、とりわけ「イーティングデザイン」の分野において、日本の優れたパートナーであると言えます。